第100話

 エドワルド様に呼ばれたセバスチャンさん。私の姿を見て、最初は驚いていたけれど、すぐに冷静な顔に戻る。さすが、この家の筆頭の執事さんだけのことはある。

 そしてジーナ様へお見舞いに来ていた相手のことも覚えていた。


「リドリー伯爵のところのお嬢様で、ラヴィニア様です」

「は? なぜ、彼女が?」


 ヘリオルド様の知り合いだったのだろうか。びっくりした顔をしている。驚いているのは彼だけではなかった。エドワルド様も一瞬固まりはしたけど、すぐにセバスチャンさんに確認する。


「あそこは、ジーナの実家と何か血縁関係などあったか?」

「いえ、ジーナ様のご実家のボイド子爵家とはご縁はなかったかと……」

「ちょっと待って」


 二人の確認の言葉に水をさしたのは、アリス様だった。


「確かに、ボイド子爵家とリドリー伯爵家の間に血縁関係はないわ。でも、ボイド子爵家の正妻のメアリー様と、リドリー伯爵家の正妻のアイラ様は、学生時代からのご学友で社交界でも仲が良いというので有名だったわ」


 さも、嫌そうな顔で話すアリス様。そんなに嫌な相手なの? と、心配になる。


「ラヴィニア様がライラたちと一緒に来ていたとなると、二人だけじゃなく三人がかりって話になるんじゃない?」


 目が据わってるパメラ様。怖い、怖いよ。


「そういえば、ラヴィニア様って、まだ独身だったよね。ジーナ義姉さんと同い年のはずだけど」

「……なぜだか婚約を断ってるらしい、という話を聞いたことがあるわ」

「ライラたちだって、もういい年だよね……って、それをいったらパメラもだけど」

「ニコラス! 私はいいの! 冒険者やってるんだから!」

「はいはい」


 冒険者やってれば結婚しなくていいってわけはなかろう。しかし、末の娘だけに、エドワルド様たちも可愛いのかもしれない。まぁ、こんな美人、そのうち誰かが捕まえてくれそうだけど。


「ミーシャも、ずっと我が家にいてもいいのよ?」


 ニッコリ笑うアリス様。それは『婚約』話の流れ、ですかね。このおばちゃんの格好の私で、それを言いますか。


「それよりも、三人が見舞いに来て、何かをしていったってことでしょ。相手を呪う方法って、特別に何かあるのかしら?」

「……あまり呪術には詳しくはありませんが」


 言葉を濁しながら話し始めたのはカークさん。


「可能性としては、奥様のお部屋の中に、何かしらの痕跡が残されているのでは」

「なぜ?」

「わざわざ訪問されたということは、ジーナ様に直接触れるか、その近くにないと発動しないような呪いなのではないかと」

「……なるほどね」


 私は部屋の中を歩きながら考える。その私を皆の視線が追いかけてくる。

 ピタリと足を止めると、皆の方へ鋭い視線を向ける。


「もう一度、ジーナ様の部屋へ戻りましょう」


 もしかしたら、呪いは一つではないかもしれない。そう思ったから。

 のんびりしてはいられない。

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