第101話
再び、ジーナ様の寝ている部屋に入る。やっぱり、なんか黴臭い。薬の匂いに隠れてる感じはするけど、それでも私にはその匂いがわかってしまう。
「あの、この部屋、黴臭くないですか?」
再び子供の姿に戻っている私。ジーナ様が目覚めて、大人な私を見て驚かれると、身体に障るかもしれない、と皆に言われて(特にアリス様)、戻ることにした。
だから自然と見上げるように問いかけることになる。
「そうか? 私はそんな匂いはしないけれど」
「私も気にならないわ」
隣に立つイザーク様は、不思議そうな顔をしながら、今度は意識してクンクンと匂いを嗅いでいる。アリス様も真似している姿は、やっぱり親子、って感じがして、ちょっと笑ってしまう。
「ミーシャ、ジーナのそばに来てくれるかい」
ヘリオルド様も、子供の姿の私には敬語は出てこないらしい。
素直にジーナ様のそばにやってくると。
「あ、また……」
さきほどの埃ほどではないものの、やっぱり薄っすらとジーナ様の首の周りに纏いついている埃がある。もう一度、首元へ指先を伸ばすと、すぐに埃は消え去った。
「やっぱり、どこかに何か仕掛けてるのかも。一応、消えたけど、また出てくる可能性があるわ」
「ジーナ……」
泣きそうなヘリオルド様は、ベッドの脇にしゃがみこむと、スヤスヤと眠っているジーナ様の頬を優しく撫でている。うむ。まるで某アニメの眠り姫のワンシーンみたいだわ。
などと眺めている場合ではない。
「私の浄化で、呪いってどうにかなるものかしら」
ポソリと呟いた声に反応したのは、なんとナビゲーション。
『呪いの浄化は可能。光魔法『ディスペル』で解呪も可能』
ほ? 魔法でも呪いって解けるの? 慌てて魔法の一覧を開いてみる。
「ミ、ミーシャ、どうした?」
いきなり何もない空間に、私が手を動かし始めたから、皆びっくりしている。
「あ、ご、ごめんなさい。あの、アルム様からいろいろ加護をいただいていていて……ちょっと、それを使えないかなって調べてるところなんです」
「なんと……聖女様は、アルム神様に愛されているのですね……」
そう呟いたのはエドワルド様。うむ、いきなり聖女様扱いは、気持ち悪いよ。
一応、ナビゲーションの画面では、私でも使用可能な魔法になっている。
「魔法、使ってみてもいいですか?」
周りにいる人々に確認する。誰一人反対する者はいなく、むしろ、皆、力強く頷いた。
私は大きく息を吸い込んで、心を落ち着かせてから、ジーナ様の方へ両手を伸ばし、魔法を唱えた。
「ディスペル」
その言葉と同時に、ジーナ様の身体が光に包まれ……ポン、ボンッ、ドンッ、と三回、何かが破裂する音がした。
「な、何事だ!?」
声をあげたのはエドワルド様。他の面々も驚きながらも周囲を見渡し、無意識に剣に手をやる姿は、なかなか様になっている。さすが、みんな冒険者。
そして、破裂音とともに、黒い煙が立上っている場所が三か所。
ジーナ様の胸元、ベッド脇に置かれていた夫婦の絵姿の入っていた額、そして、窓際に置かれた大きな姿見。そこから嫌な感じの煙が立上っている。オズワルドさんが急いで窓を開ける。ヘリオルド様は、慌ててジーナ様の胸元を確認しようと手を伸ばす。
「ヘリオルド、私がやります」
アリス様が青い顔をしながらジーナ様の傍へ寄る。
「母上っ」
「大丈夫、大丈夫です」
アリス様はジーナ様の胸元を見て、一瞬、息を止める。でも、すぐに大きく息を吐いた。
「ペンダントトップが、黒ずんでるわ」
ジーナ様の首からペンダントをはずして、私たちのほうへと差し出したのは、ダイヤ型の小さなペンダントトップ。元はどんな色のものだったかもわからない。
ベッド脇の夫婦の絵姿だったものは真ん中が真っ黒に焼け落ちている。そして……鏡のあった場所は壁が煤け……鏡自体は真っ黒になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます