閑話
人を呪わば ーコークシス第三夫人の場合ー (1)
時は、ウルトガ国王の番、サンドラの解呪をミーシャが行っている頃。
コークシス国王の第三夫人は食事を終えて、第三夫人専用の浴室で、優雅にゆったりと湯船に浸かっているところであった。
「そろそろ、あの者は消えてくれたであろうかのぉ」
気持ちよさそうな深い溜息が、浴室の中に響く。
すでに三十も後半になった第三夫人の元へ、国王の渡りはまったくなくなっていた。最初の子を流行病で亡くしてからは、子を生すことは出来なかったとはいえ、元は隣国ナディス王国の末の姫。容易く離縁をするわけにもいかず、コークシス側でも持て余し気味な存在であった。
今では、国王の方は十代半ばの小娘にうつつを抜かしているらしい。しかし、そんな国王への嫉妬心など、当の昔に消えていた。今は、義理の息子となった二十八になった第三王子へと想いをはせる。
手元に引き取った当初は、十歳程しか離れていないとはいえ、自分の息子だと思おうとしていた。しかし、徐々に成長していく姿に、心が惹かれていくのを止めることは出来なかった。エルフの容貌を色濃く残した第三王子に、多くの女性たちが熱いため息をもらす。第三夫人もその一人となっていく。
「あの人がいる限り、私の存在はずっと貶められ続けるのです」
ことあるごとに義母にこぼす第三王子。『あの人』とはウルトガに残った実母のこと。
実母を残してウルトガから引き取られたこと、ウルトガに嫁いだのに月足らずで生まれたこと、そして『王弟の落とし胤』。
婚約者が決まらないのは、こういった噂の存在が大きい。そして、王位継承権をいまだに得ていないことが、多くの貴族たちが静観している理由でもある。
辛そうな表情を浮かべる第三王子の姿に、恋に狂った第三夫人が騙されるのは簡単だった。
「あの人がいなくなればいいのに」
第三王子が吐き出すように言った言葉に、ギュッと手を握りしめ、見つめあう二人。傍から見たら、年の離れた恋人同士に見えたかもしれない。
そんな麗しい義理の息子との時間を思い出しながら、白魚のような濡れた手を伸ばし、その先を見つめる第三夫人。今は皇太子候補となるべく、離宮を離れ、ダンジョンに向かった第三王子。義理の息子に懸想している自分を、愚かと思いながら、それを抑えられずに愚行に走ってしまった自分に、嘲笑を浮かべる。
ウルトガの実母に付けている者たちは、時間をかけて、すべて第三夫人の手の者に入れ替えた。初めはただ監視のためだったのが、いつか存在を消し去るために、と思惑は変わっていく。
そして、ついにその手段を手に入れたのは、半年ほど前のこと。
ナディス王国の伝手を頼って、ハロイ教の信者を名乗る者が現れた。かの帝国でも、じわじわと勢力を広げているという噂を聞いていた第三夫人は、その者の話を興味深く聞いていた。
その会話の中、呪殺について聞いた時、第三夫人は、これだ、と思った。
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