第248話

 陽が落ちると砦の門は閉められてしまう。私たちが入れたのは、空が蒼くなり始めた頃。この街を抜けるだけの時間はなかった。人気がないところでもあれば、皆で転移して森の家に飛ぶんだが、地図情報で調べてみると、この砦の街、ギュウギュウに詰め込んだような作りになっているせいか、死角になるようなところがない。

 露店の並ぶ大きな通りをゆっくりと馬を引きながら歩く私たち。美形双子のせいで、目立つ、目立つ。あちこちの露店のおじさん、おばさんから声がかかること。旨そうな食べ物に目が行くと、つい近寄りそうになるパメラ姉様を諫めつつ、どこか目的があるのか、キョロキョロと何かを探す、ニコラス兄様。

 私の方も地図情報を見る。ポチポチとうすぼんやりした赤、というかピンクだろうか。そんな点がいくつか散らばっているけれど、完全な悪意とまでいかないから、スルーする。


「あの角の奥に小さな宿屋があったはずだけど」


 ニコラス兄様が、街の中ほどで小さな脇道に入っていく。馬と並んで歩くと、反対側から来る相手とギリギリかわして通れるくらい。狭い。

 そして辿り着いたのは、本当に奥まったところにある小さな宿屋。この小ささの宿屋に厩舎もあるのは驚きだ。二人は慣れた感じに、馬たちを繋いでいく。


「はい、いらっしゃい」


 ドアを開けた途端、誰もいない宿屋の入口だったのに、声だけが聞こえてくる。びっくりしている私をよそに、ニコラス兄様がカウンターの方へ行くと、上からカウンターの中を覗き込む。


「三人なんだけど……空いてるかい?」

「すまないねぇ……一部屋しかないんだよ」


 本当に申し訳なく思っていそうな声とともに、カウンターの中から、ずいぶんと小柄なおばあちゃんが現れた。たぶん、私より小さいかも。この背の高さじゃ、カウンターに顔を出すのは無理だ。


「一部屋でも構わないわ。どうせ、明日の朝にはすぐに出てしまうし。素泊まりでいいんだけど、大丈夫かしら」

「おやおや、リンドベルの双子じゃないかい。久しぶりだねぇ」


 おばあちゃんが嬉しそうな声で、二人に話しかけてきた。どうも知り合いだったらしい。


「あら、覚えててくれたのね。でも、もう三年くらい前じゃなかったかしら」

「そうだね。俺たちがB級に上がったくらいだったと思うんだけど」

「今や、A級の冒険者らしいじゃないかい。おや、そっちの子は、従者か何かかい?」

「あ、はい」


 勘違いしてくれてるようなので、その言葉に素直に頷く。


「お前さんたち兄弟に、そのおチビさんだったら、あの部屋でも大丈夫だろうよ。食事は無しでいいんだね?」

「ああ。朝も早いし、俺たちは早めに休みたいから、夕飯は買ってきたヤツで済ますから」


 正確には、森の家で晩御飯、だな。わかりました。わかりました。


「はいよ。鍵。部屋は三階の一番奥だよ」


 私の目の前に差し出された鍵を受け取る。そりゃね。二人は大きいし。

 ペコリと頭を下げて、勝手知ったるといった感じの二人の後をついていった。

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