第249話

 部屋に入ってすぐに森の家に転移して、十分に休めたのは言うまでもない。やっぱり、お風呂に、慣れたベッドと枕っていうのは、いいもんだ。

 朝はコカトリスの鳴き声で目が覚める。ゴソゴソと動き出しているのは私だけ。双子たちは客間で爆睡中だ。

 今日のお昼ご飯のスープは、ご要望のあったトマトベースのスープ。ゴロゴロのベーコンに、キャベツや人参を入れて、具沢山。そして、こっちの世界では珍しいバターロール。自分でパンを焼くセンスはないから、私のうろ覚えのレシピで、屋敷の料理長さんとああでもない、こうでもない、と言いながら作り上げた柔らかパン。出来立てほやほやのをアイテムボックスに入れてあるから、取り出すときも、温かい。それに、今朝産まれたてのコカトリスの卵で、卵のペーストを山盛り作ってボールごと仕舞い込む。

 ……本当にアイテムボックスって、便利だけど不思議だわ。


「おはよう」


 キッチンに、まだ少し眠そうだけど、しっかり着替え終わっているニコラス兄様の登場。パメラ姉様は、まだ寝てるのかもしれない。


「あ、おはよう、ニコラス兄様。朝ごはん、たくさん食べる?」

「ん~、この匂いは、トマトのスープかい?」

「うん、お昼用だけど」

「そうか、ん~、食べたいところだけど、お昼の楽しみにしようかな。その代わりに厚切りのベーコンとスクランブルエッグ山盛りで」

「は~い」


 朝早くても、モリモリ食べられる若者って、凄いわ、なんて感心しながら、白いお皿に盛っていく。自分の分は、サラダ多め。

 しばらくすると、パメラ姉様も起きてきた。こっちもしっかり冒険者の格好で登場。そのわりに、ぼうっとしたままで、挨拶もなし。席に着いたパメラ姉様の目の前に、ニコラス兄様と同じくらいのボリュームの朝食を置く。食べるんだよね。この人も。


「はっ!?」


 匂いにつられたのか、そこでようやく目が覚めた模様。


「おはよう、パメラ姉様」


 目の前に座って、ニッコリそう言うと、パメラ姉様も私に気付いて、苦笑いして「おはよう」と言った。まぁ、ここはリンドベルの屋敷じゃないからいいけどね。あちらだったら、セバスチャンやメイド長のアンに冷ややかな目で見られてたかもしれない。それはそれで、十分怖いんだけど。

 私もニコラス兄様も食事を終え、食器を片付けると、紅茶を飲みながら、パメラ姉様待ち。


「そうだ。昨日、話の途中だったこと」

「……なんだっけ?」

「嫌だなぁ、エシトニアに行くか、帝国の港町に行くか、どっちにするかって話よ」

「あれ? エシトニアに行くってことにしたんじゃなかったっけ?」


 ニコラス兄様は、精霊魔法の話をしているところで、門に入ってうやむやになったのを忘れているらしい。


「ニコラス兄様は、そっちがいいのね」

「私もよ。美味しいもの、食べに行きましょ」


 サラダにいれたトマトにフォークを刺して、嬉しそうにいうパメラ姉様の言葉に、もう、行くのはエシトニアに決定するしかない。私も、美味しいものを食べるのはやぶさかではないからいいんだけど。


「それじゃ、行く先はエシトニアで決まりね」


 最後の一口を飲み干し、ダイニングの窓の外へと目を向けると、薄暗い中、しとしとと雨が降り出したのが見える。あちらは雨が降っていないといいな、なんて思っている所に、ニコラス兄様の目の前に、伝達の青い鳥が現れた。


 ……嫌なことしか、頭に浮かばないんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る