第250話
届いたのはヘリオルド兄様からの手紙だった。
読み進めるうちに、徐々に嫌そうな顔になるニコラス兄様。小さなメモの割に、ビッチリと何やら書いてある様子。
「なんか面倒なことになってるみたいだねぇ」
「なんだって?」
「ん? ほら、リドリー伯爵家の件、近衛騎士が絡んでるって話」
「ああ、あれね」
パメラ姉様が思い出した後、皿に最後に残ってたスクランブルエッグをフォークでまとめると、口に放り込む。
「ふぅ、ごちそうさま。で、その近衛騎士がどうしたって?」
「どうも昔、リドリー伯爵令嬢の婚約者候補だったらしい」
「うん? 婚約者、じゃなくて、婚約者候補?」
「そうそう」
リドリー伯爵令嬢を牢屋から逃がしたのは、やはり近衛騎士の一人だったらしい。婚約者にはなれなくて、未練があったってことなんだろうか?
「どういう経緯で婚約までに至らなかったのかまでは書いていないけどね」
「でも、よく伯爵家に入ることが出来たね」
「そこも、よくわかんないんだけど、顔見知りとかだったのかな。ほら、親同士は知り合いだった、みたいなさ」
「なるほどね」
その近衛騎士は、イザーク兄様の直属の部下ではなかったらしい。その点は、まだよかった、と言えるのだろうか。
しかし、リドリー伯爵家の全員が亡くなっていたのも、イザーク兄様が行くまで誰も気付いていなかったそうだ。出入りの商人などもいるだろうから、不審に思われるのは時間の問題だったかもしれないけど。
その婚約者候補だったと言われる近衛騎士、日ごろからリドリー伯爵令嬢を気にかけていたらしく、周囲の者にも、彼女を救わなくては、とか言っていたとか。何をキッカケに、伯爵家に向かったのだろうか。
「まだ、色々調査の必要があるらしいよ。イザーク兄様も大変だ」
「ん? なんで? 部下ではないんだよね?」
「ああ。でも、いきなり一人抜けただろ? そいつ、どうも第三王子の担当だったみたいで、そっちとの人のやりくりとかあるみたいだ」
「ふ~ん。でも、その程度だよね?」
「あのね、ミーシャ、一応、王族を護衛するんだよ。誰でもがなれるわけじゃないんだ」
「……ああ、そうでしたね」
あちらのように、アルバイトやパートみたいにはいかないか。それだって、すぐに採用されるわけじゃないし。過去の自分が受けた、面接やら研修期間やらが頭をよぎる。
「その上、ミーシャが旅に出ただろ?」
「うん? なんか関係ある?」
「……イザーク兄上が、置いていかれたって嘆きまくって、使い物にならなくなってるらしい」
……アホか。
「兄上には連絡しなかったの?」
「ニコラス兄様、そうは言うけどさ、イザーク兄様、忙しそうじゃない」
「いや、まぁ、そうだけどさ。ちょっとは、ね?」
「……あんまり甘やかすのも、どうかと思うんですけどね」
ポリポリと頬をかきながら、イザーク兄様の様子を想像する。
何かと言うと、理由をつけてはリンドベル領に戻って来ていた、イザーク兄様。可愛がってもらっている自覚はあるんだけれど、やっぱり、中身がおばちゃんだけに『若いツバメ』扱いになってしまいそうで。
なんとなく、自分でもストッパーかけているのだ。
……いい人ではあるんだがなぁ……。
「そもそもさ、イザーク兄様から手紙の一つも来てるの?」
「……あっ」
パメラ姉様の言葉で、森の中を移動中に来たのを、ちらっと目を通しただけで、アイテムボックスに入れてしまったのを思い出した。
「……忘れてた」
「ミ~シャ~」
「放っとくと、王都から飛び出してきそうだから、連絡いれとけよ」
「うう、わかった」
一応、アイテムボックスから手紙を取り出して目を通す。どこにいるのか、無事なのか、連絡よこせ、これに尽きる。うむ、文字が乱れてるあたり、ちょっと心配させすぎただろうか。
なんて思って、すぐに伝達の陣で手紙を送ったら、間髪入れずにイザーク兄様から返事がきた。無事でよかった、と。
しかし、どうしたら、こんなに早く書けるのだろうか。待ち構えてたのか?
……イザーク兄様、怖すぎ。
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