第371話

 私たちは、さっさとオムダル王国から離れることにした。

 一応、エドワルドお父様たちの依頼も達成したことだし、パトリシア嬢も目を覚ました。ずいぶんと長い間寝たきりだったので、筋肉が落ちてしまって、ベッドからはまだ出られないようだけれど、侯爵はそれでも嬉しさで号泣しまくっていた。

 これ以上、私たちがこの国にいても仕方がない。これからの侯爵家のことは、侯爵たちが自分でなんとかするだろう。

 達成報告だけ冒険者ギルドの方にしてから、リンドベル家に飛べばいい。


「うん、街の中同様、人が少ないね」


 ギルドに入っての感想。大きな場所だけに、余計にそう感じるのかもしれない。

 しかし、依頼の貼りだされている掲示板のところもそうだけれど、酒場の方にも人影はまばら。昼間から飲んだくれているよりは、マシかもしれないが。

 カウンターの方を見ると、グレーのローブを着た集団が、何やら騒いでいる。


「だから、護衛の依頼を頼んでるんじゃないかっ」

「しかし、ご希望のランクの方は」

「……構わん」

「教祖様っ、しかし」


 見るからに怪しい集団に、私はカウンターに近づくのを躊躇った。


『フッ、見るも無残だな』


 いきなり精霊王様が呟いた。


「何です?」

『いや、なんでもない』


 なんだか楽しそうなので、まぁ、いいか、と前を向く。もう、早いところ、リンドベル家に戻って、のんびりしたい。


(GYAAAAAAAAA……!)


「うん? 何か聞こえた?」


 私は首をかしげる。


 ――誰も反応していないので、空耳だったのかな?


 そう思ってカウンターの方へと向かおうとすると、いつの間にか私たちの横まで来ていたグレーのローブの集団の中の一人と目があった。年はエドワルドお父様たちよりも上くらい。深い皺の感じからも、かなり高齢に見える。

 その目は、恐怖に慄いていて、まるで化け物でも見るかのよう。


 ――何よ、私が何かした?


 ムッとしながら睨み返すと、その老人は、年に見合わず凄いスピードでギルドから飛び出していった。


「教祖様っ!」

「お待ちくださいっ!」


 グレーのローブの集団がギルドを出ていくのを、呆気に取られながら見送る私。


『自業自得よな』

「うん?」

『いや、ほれ、エドワルドたちが待ってるぞ?』

「あ、うん」


 私は慌ててエドワルドお父様たちの元へと走る。


「ミーシャ、急がなくてもいいわよ」

「転ぶな」

「さぁ、一緒に見ていようか」


 みんなの優しい笑顔に、私も同じように笑みを返す。


「さっさと報告して、帰ろう?」


 私の本気の言葉に、みんなは当然のように頷いた。

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