第370話

 侯爵からの話は、こうだ。

 なんと、オムダル国王が、病気で明日をも知れない状態になっていたのだという。王妃、王太子はもとより、大臣などの主だった者たちが呼ばれ、その場で見守っていたところ、いきなり白い光で目の前が見えなくなったのだとか。


 ――その『白い光』、きっとアレかな。


 チラッと精霊王様へと目を向けると、二コリと笑いかけてきた。ああ、やっぱり。

 その後、息を引き取るかに見えた国王が、目を覚まし、そのうえ身体を起こして発した最初の言葉が『腹が減った』だったそうだ。


「その場は、安堵と喜びで溢れていたのだが、突然、王太子様のご婚約者様が……」


 沈痛な顔になる侯爵。


「婚約者?」

「……王太子の婚約者は、あの偽聖女ですよ」


 私が首をかしげると、カークさんが苦々しい顔でこっそり教えてくれた。元々別の婚約者がいたのを、彼女に乗り換えた、とか、そんな話だった気がする。


「彼女がいきなり叫び声をあげたかと思ったら、身体が枯れ木のように変わっていったのです」


 その様子を思い出したのか、侯爵は身体をぶるっと震わせる。

 同時に、その言葉に、みんなが目を瞠る。何か聞き覚えのあるキーワード。

 侯爵令嬢の病気の状況を知らなかったから、なんとも言えないけれど……でも、確実に、ウルトガのアレと同じモノに違いない。


「その上、同席していたハロイ教の教主までもが同じような症状が現れて……ただ、彼の方がまだ症状は軽かったようで、信者たちが連れて帰っていきましたが」

「えと、その、婚約者さんは?」


 私が恐る恐る聞くと、侯爵は顔を顰めたまま横に振った。


「あれは……もう、人とは言えません。私も、同年代の娘を持つ者、例え、うちの娘の代わりに婚約者に選ばれていたとしても……あれは、哀れです」


 ――ああ、なんか。予想ができてしまった。


 解呪が成功した場合、呪いをかけた者へと返っていく。


 ――侯爵令嬢にかかってた呪い、彼女がかけてたのか。


 そして。


 ――アリス母様のは、ハロイ教の教主?


 まったく、何がしたいんだ! ハロイ教めっ!

 しかし、その教主にも解呪で呪いが返っているはず。自業自得だ。


「国王の快癒が確認されたので、私たちも戻ることにしたのです……特に私はアレを見て、娘の様子が気になりましたし」


 帰ってきてみたら、逆に病気(本当は呪いだけど)が治っていて、安心したようだけど。


「ジョーンズ、じゃあ、依頼の品はもう必要ないってことか」


 エドワルドお父様が、少しばかり残念そうな顔で、そう聞いた。


「ああ! もしかして、もう採ってきてくれたのか! いや、例えパトリシアの病が癒えたとはいえ、いつ必要になるかわからん。ありがたく受け取るよ」


 侯爵は嬉しそうにそう答えると、エドワルドお父様から依頼の品を受け取ったのだった。

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