第369話
私たちは部屋を移動して、落ち着いて話をしよう、ということになった。
お父様たちも、侯爵の反応に違和感があったようだ。よかったよ、これ以上、勝手に暴走しなくて。暴走したのは侯爵の方だったけど(中年執事は、なんとか息をしてはいる)。
しっかり離れには結界を張った。もう、あんな物騒なことは起きないとは思うが、万が一、ということもある。
私たちは、屋敷内の応接室へと案内された。
「よかったわ。ジョーンズがまともで」
「すまん、しかし」
「あんな女を家に入り込ませてるのは、どうかと思ったがね」
「ぐっ」
あの泥棒、いや、テレーザ・ボロドウは、侯爵の亡き妻の友人だそうだ。一応、妻からの頼みもあって、気にかけてはいたらしい。それに調子に乗った、というわけか。それにしても。
「まさか、私が不在の時を狙って入り込んでいたとは、思わなかったよ」
力なく頭を抱えながら、そう呟く侯爵。
今は使用人がいないので、仕方なく私がお茶を淹れてあげることにした。その間に、お父様たちによる、事情聴取だ。
「侯爵、勝手に執務室に入らせていただきました。すみません。状況が状況でしたので……調べたところ、ヨゼフさんも、コクトス夫人も、急に体調を悪くされたようです。ヨゼフさんは、王都にいらっしゃる息子さんの元で、コクトス夫人はご自宅で療養中ですね……それが、ここ三日のうちに、です」
カークさん、姿を見ないと思ったら、すでに調査に走ってた模様。さすが。
パトリシア嬢の面倒を任せていたコクトス夫人は、今は亡き奥さんの実家から連れてきていた女性だそうだ。パトリシア嬢が倒れる前から、何くれとなく面倒をみてくれていた方らしい。長期で侯爵が不在にしても、病人を任せられるくらいに、信用のある方なのだろう。
そして、半数の使用人とは連絡がとれなくなっていることがわかり、侯爵も呆然となっていた。ただ、その半数というのが、ここ半年でテレーザ経由で雇用した者たちだということがわかり、完全に侯爵家が狙われてたっていうのが、あからさまだった。
それに気付かない侯爵も侯爵だが。
「パトリシアの病を治すのに必死で……ヨゼフに任せっきりだったのもあるかもしれんが」
ヨゼフさんは先代侯爵の頃からいるとかで、かなりの高齢だったようだ。その隙を狙って入り込んだ誰か……テレーザ経由で入ってきた中年執事あたりだろうか。
それにしても、こんな短時間でこの家を掌握して、何がしたいのだろう?
「そういえば、王城の方で何かあったのか」
「ああ! いや、うん……エドワルドたちであれば大丈夫か……」
「……無理には聞かんぞ?」
「いや、実は……」
侯爵は、誰かに話したかったのかもしれない。
訥々と話し始めた。
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