第368話

 現れたのは話題のロンダリウス侯爵。ずいぶんとゲッソリとした顔で、目は血走っている。若かりし頃は、それなりにモテてただろうな、と思うが、今は、少しみすぼらしい感じがするのは、なぜだろう? その後を若い護衛らしき騎士が追いかけてきた。


「パトリシア、パトリシアッ」


 ……私たちは無視ですかい。


 目の前にいる私たちに意識を向けることなく、令嬢が寝ているはずのベッドへと駆け寄る。彼の必死な様子に違和感を感じる。


「パト……リ……シア?」


 侯爵の動きが止まる。


「お、おおっ! 神よ!」


 そう叫ぶと号泣し始めた。

 そりゃね、寝たきりで凄くやつれた状態だった娘が、健康そうに見えるくらいにはなったんだもの、喜ぶよね。ついでに呪いも消えてるし。

 しかし、令嬢の方はまだ目を覚まさない。それでも、彼は嬉しいのだろう。


「……ジョーンズ」


 そんな感動シーンの場面で、おどろおどろしい声をあげるのは、エドワルドお父様。


「あ……エドワルド? どうしてお前がここに?」


 涙でボロボロの状態で、きょとんとした顔になっている侯爵。


「どうして、じゃねぇだろう……よくもまぁ、俺たちを殺そうとしてくれたな」

「こ、殺す?!」

「えぇ。うちの息子たちが助けに来てくれなければ、危うかったでしょうね」


 お、おう。アリス母様が迫力の登場。


「アリス、いや、ど、どういうことだい」

「ハッ、それはこっちが聞きたいわよ。せっかく、依頼の品を持ってきたというのに、その女に薬を盛られるわ、メイドたちに殺されかけるわ、なんの恨みがあるっていうのよ」


 なんか、どんどん怒りのオーラで部屋の中が圧迫されてる感じがするのは、気のせいだろうか。精霊王様ですら、ビビってるっぽいんですけど!


「その女って……え、なんで、テレーザが? ん、そいつは誰だ?」

「お前んとこの執事だろうが」

「うちの執事は、もっと年老いているが」

「前任者が病で倒れて、後を引き継いだと言ってましたがね」


 イザーク兄様がそう言うと、オズワルドさんがボロボロになっている男の顔をあげて見せる。


「だ、誰だ、お前は。知らん、俺は知らんぞ」

「ご、ご主人、ざ、ざま……」


 そう必死に顔をあげて、訴えようとする男。


「ほ、他の使用人たちは」

「こいつが言うには、解雇や休みを取らされていて、屋敷にはいないとか……どこまで本当か、怪しいですがね」


 ギロリと睨むオズワルドさんに、びくりと身体を震わす中年執事。いや、こうなると偽執事かな。


「ど、どういうことだっ、ヨ、ヨゼフが病などと、聞いてないぞっ!」

「ひ、酷いで……ず、ご主人ざまっ」

「ええいっ、黙れっ、コクトス夫人は、コクトス夫人はどうしたんだっ」


 その二人のやりとりを見て違和感を覚えた私は、急いで地図情報を開いて、確認する。


「……侯爵は白ね」


 いや、地図上は青だけどね。

 もし、こいつと侯爵が繋がってたら、少なくとも青になるはずがない。男の方は、相変わらず赤だし。


 あ。 


 侯爵、ぶちぎれて、偽執事、蹴とばしてしまった。

 ……自業自得か。


****


 偽侯爵夫人の閑話を用意したのですが、少し長くなってしまったので、本編ではなく、短編集に載せました。

 ご興味があれば、どうぞ^^


 

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