第302話
ヘリウスたちは夜のうちに宿を出て行った。コークシスの王都にある大使館の転移の間を使って戻るらしい。なにせ、コークシス王国からウルトガ王国に行くには、ドワーフの国のソウロン王国、あるいは人族の国のナディス王国のどちらかを通る街道を使うらしく、スレイプニルで移動しても、ここからでは一カ月近くかかるらしい(王都までなら三、四日だそうだ)。
それに短いメモには、解毒に使うための素材収集も指示があったらしく、私の手持ちの素材まで聞かれてしまった。たまたま、今朝、摘んだ薬草の中に一つだけあったので
しっかり買い取ってもらった。ぼったくってはいない。
「ヘリウスたちがいなくなったから、少しは楽に移動できそうね」
パメラ姉様は、さっそくダンジョンに向かうつもりのようだが、私は行かない。これ以上、双子の我儘につきあうつもりはない。そう伝えたら、泣く泣く私の後をついてきた。いや、勝手に潜ってくればいいじゃん? と言ったら、あのモンスターハウスは無理だ、という。私頼みかいっ、と、ちょっと呆れてしまった。確かに、二人であそこの攻略は無理だよなぁ、とは思うけど、私はしばらくは、あの臭いの中にはいたくない。
お茶の農園は素晴らしかった。日本ではテレビの映像でしか見たことはなかったけれど、さすがに、残念ながらあんな綺麗に並んだ風景ではない。しかし、この国のお茶の木は、随分と背が高いようで、皆、梯子に乗って茶摘みをしていた。さすがに、手ぬぐいを頭に茶摘みをする風景ではなかった。
農園の入口には、加工済みの茶葉の入った麻袋が山盛りに置かれていたり、観光客や商人たちのやりとりや、試飲を勧めてる様子に、道の駅の直売所の風景を重ねて、懐かしい気持ちになった。
私も当然のように、いくつかの茶葉と苗木を購入した。苗木は、それほど背が高くならない種類だそうで、挿し木でも増やすことができるらしい。たくさん買って、失敗したら悲しいので、三つほどで我慢した。苗木を受け取りながら、森の家の庭のどこに植えようかなぁ、なんて、考えているところに、青い鳥が目の前に現れた。ずいぶんともっちりした青い鳥だ。初めて見た。
「誰からかしら」
アイテムボックスに苗木を仕舞い込み、手を差し出すと、ずいぶんと厚みのある手紙が落ちてきた。なるほど。もっちり具合は、この手紙のせいか。こんなボリューミーなのを送ってくるのは、かなりの魔力の持ち主で……なんか立派な赤い蝋で封がされている。このマークって……?
「……やだ、これってレヴィエスタ王家の印じゃない」
「げっ」
上から覗き込んでいたパメラ姉様の嫌そうな声に、呻き声が出てしまう。なぜ、王家!?
「ここじゃ、まずい。場所を変えよう」
「う、うん」
買い物客の集団から抜け出すと、農園の用意している休憩所に向かう。そこも、お客さんの姿はあるものの、そこまでの混雑はなかった。
私たちは空いていた木でできた長椅子に並んで座り、手紙を広げた。
「……う、うん? イザーク兄様、何してんのよ」
その手紙は、国王陛下の玉璽付き。それだけでげっそりなのに、イザーク兄様が近衛騎士を辞めたという連絡とともに、なぜか、ウルトガ王国への出張依頼だった。
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