第161話
着いたのは、家の中の寝室。この前来た時に、しっかりマーキング済み。勢いでやってしまったものの、初の長距離の転移が成功して内心ホッとした。実は屋敷の中で短い距離とかは試してはいたのだけれど、長い距離は自信がなかったのだ。これで王都のイザーク兄様のところにも行けるかな。
寝室から出てみると、誰もいない家は静かだ。独り暮らしなんて、独身時代以来だし、戸建てでのなんて、初めてだ。この前はゲイリーさんたちがいたから、あまりのんびりは見られなかったので、じっくりと見てまわる。
時々来てくれてるのだろう。部屋の中の空気も、淀んではいない。
「うん、やっぱり、この家、いいな」
あちらにいた時はマンション住まいだったから、こうして戸建てだとまさに『我が城』という感じになるかも。
むふふ、と笑いながら、玄関から外に出てみる。やっぱり森の中。空気も違うね。ぐるりと周囲を見渡してから、「よしっ」と気合を入れて、魔道具の箱を地面に降ろす。
設置するなら、石塀の中側。外に置いて万が一にも壊されたら困るから。四角い土地の角々に魔道具を起動させながら刺す。起動した時、するりと少しだけ魔力が抜けた感じがする。これで管理者登録されたってことなのだろうか。
次にそれぞれ石塀の一辺の真ん中と、門扉の両サイド。最後の一本を刺したところで、結界が完成したのか、ヒュインッと微かな音がした。
「うん、いいんじゃない?」
上を見上げると、薄っすらと膜が張っているのか、キラッと日差しが反射した。
「あとは、私がこの結界を張っている状態で転移ができればいいんだけど……転移」
玄関先にいた私は、門扉の外、結界の外に転移した。そして、そこからもう一度、玄関先へ。今度は寝室へ飛び、再び、門扉の外へ飛んだ。特に、負荷がかかることなくスムーズにいったので、ホッとする。
「よし! これで安心かな」
あとは皆にピンバッチを渡せばいいか、と考えているところに、馬車が近づいてくる音が聞こえてきた。
振り向いて見ると、道の先から荷馬車が向かってくる。タイミングよく、ゲイリーさんたちが来たようだ。私は思い切り両手を振ると、それに気付いたのか、御者の席にいたゲイリーさんと後ろの荷台に乗ってたニーナさんが、驚いた顔で手を振り返してくれた。
「ミーシャ様、いつ、こちらに?」
馬車を止めると、二人は慌てて私の所にやってきた。
「ついさっきです。あ、ゲイリーさんたちに渡しておきたい物がありまして」
二人にピンバッチを渡しながら、この家の周辺に結界を張ってあることを伝える。結界まで張るとは予想していなかったのか、二人ともびっくりしている。
「あ、でも、このピンバッチをつけていれば、自由に入れますから」
「おお、便利ですな」
「忘れちゃったら、入れませんから、気を付けてくださいね」
「確かに。また一時間かけて戻るのは、面倒ですからなぁ」
「あ、そういえば、荷馬車は入れるんでしょうか」
言われてみれば、それは確かめていなかった。
「ちょっと、試してみましょうか」
ゲイリーさんは御者の席に座って門扉の前へと馬車を動かす。私が門扉を開けると、ゆっくりと中へと入っていった。
「おお。大丈夫そうですね。でも、これ、荷台に関係ない人が乗ってたらどうなるんだろう……」
「私が試してみましょうか?」
ニーナさんがニコニコしながら言ってきたけど、万が一があってもいけない。
「ん~。ちょっと待っててくださいね」
「え?」
私は家の中へ駆け込むと、そのまま再び、リンドベル家の屋敷へと飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます