第163話
それからは、魔の森の家での生活が主になったけれど、しょっちゅう領都の屋敷にも顔を出していた。特に夕飯は領都の屋敷で取ることがほとんどに。一人での食事って、味気ないし……正直、こっちでの料理が上手く出来ない、というのもある。レンジも無ければ炊飯器もない。ああ、日本での便利な食生活に毒されてたのね……。
そして、魔の森の家では、まさにこれぞスローライフ的な生活をしている。
朝日が昇るとベッドから起きだして、コカトリスの世話をする。卵を拾い、薬草に水をやって、育ってきたのを取ってくる。朝ごはんを食べてから、傷薬や風邪薬などの常備薬的なものから、初級ポーションや中級ポーションみたいなのも作ってみたり。出来上がったものは、ポポさんのところに持って行って、売れる物は売ってもらうことにした。
一応、魔の森のそばにあるから、冒険者ギルドの出張所もあるそうで、時々、冒険者たちがやってくるそうだ。エドワルドお父様たちのようなクラスは、ほとんど来ないそうだけどね。
「これなら、領都でも十分売れると思うけどねぇ」
私の持ち込んだ風邪薬を見ながら、そう呟くポポさん。
「え、売れますかね?」
「ていうか、ここでも売ってるし」
ポポさんの店先の端っこのほうに、私が作った初級ポーションの瓶が並んでいる。ポポさんから小さめな瓶を融通してもらって、置かせてもらっているのだ。小さな村だけに、そんなに売り上げはないけど。
「私はこの土地が好きなんで、領都までいくつもりはないが、リンドベルの力があれば領都に店の一つや二つ、持てるだろうに。それに、お前さんは随分と……力があるようだからね。私なんかよりも、もっと量が作れるんじゃないかい?」
確かに、一般的な常備薬のような類はそうでもないけれど、ポーション関連のような製造過程に魔力が必要となるものは、実はポポさんのより質がよかったりする。当然、消費する魔力も多いから、量もこなそうとおもえばこなせる。これ、ポポさん談。
「まぁ、お前さんのポーションは人気があるから、それがなくなるとこっちも痛手になるっちゃなるんだがね」
「嬉しいこと言ってくれますね」
「冗談じゃないよ、本気だからね」
そう言われると、その気になるのが心情で。
リンドベル家の夕食の時に、つい、ポツリと、店の話をしたら……翌日には、いくつかの候補の空き店舗を探してきちゃいましたよ……エドワルドお父様が。
それを言ったら、ポポさんには、大笑いされてしまいましたがね。
一応、店を開くにあたり、商人ギルドと薬師ギルド、両方に登録して登録証を店の中に飾らねばならないそうだ。子供の格好の私相手に、例え辺境伯が保護者であっても認めてもらえないかもしれない、という話になり……変化のリストでおばあさんの格好になって登録した。
保証人にポポさんの名前があったおかげで、だいぶスムーズに登録出来たのは言うまでもない。
* * *
店の営業時間は気まぐれで、魔の森での用事を終わらせてから、店に飛ぶ。店番の時は、子供の私でも問題ないことがわかったので、店主を、と言われた時だけ、店の奥で変化して対応することにした。おばあさんの格好って、悲しいかな、心も老ける気がするのよね。
そして陽が沈む頃には店を閉めて、リンドベルの屋敷に夕飯を食べに行く。
そんな日常がルーティンになってきた頃。店番をしていた私の目の前に、イザーク兄様から、久しぶりに伝達の魔法陣を使ってお手紙が届いた。元気にしてるか、という短い手紙に、ちょっと笑みを浮かべてから、思い出した。
「あ。イザーク兄様にピンバッチ渡してないや」
ずっと王都にいるのだから渡しようがないんだけど、貰ってないことを知って、後でブツブツ言われそう。店が終わったら、ちょっと王都まで行ってみようかしら、と思いたった私なのであった。
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