第245話

 ポタージュスープは自分でも納得の出来。美形なのにハンバーガーを大口開けて美味しそうにかぶりついている双子。その姿に、和むなぁ、なんて思っていたところに、同じ休憩場所にいた、見るからに裕福そうなおっさんが、警護の冒険者らしき人たちを引きつれてやってきた。ちょび髭に細い目、ぽよんと飛び出たお腹。贅沢病の兆候を見てしまう。それでも、貴族、というよりも、商人っぽい。

 その商人(仮)が偉そうに鼻を鳴らしたかと思ったら、いきなり暴言を吐いた。


「おい、お前ら、そのスープをよこせ」


 ……このおっさん、商人(仮)じゃなくて、強盗(仮)だな。強盗(仮)。

 小説とかにでも出てきそうな定番な状況に、思わず笑ってしまいそうになる私。吹き出さないようにと、思わずおっさんたちに背を向ける。肩が震えるのは許して欲しい。

 そもそも、誰に向かって言ってると思ってるんだ。私たちが(見た目が)若いからって、侮り過ぎ。

 双子はA級の冒険者で、リンドベル領の者なら誰でもが知っているような存在。この休憩所は、ギリギリ領内ではないものの、それだって知っている者は多い。その証拠に、休憩場所にいる他の面々が、ざわついている。それにも気付かずに、言葉を続けるおっさん。


「おい、お前ら、あの鍋を取って来い」

「旦那、やめときましょうぜ」

「は? 何を言ってる。それなりの金は渡してるんだ、さっさと言われたとおりにしろっ」

「……はぁ。すまんな、嬢ちゃんたち、その鍋ごと……くっ!?」


 三十代くらいの冒険者の方が、少しはまともみたいだったけれど、雇い主には逆らえない模様。でもね、食い物の恨みは恐ろしいんだよ。

 彼の言葉を最後まで聞くことなく、飛んでいく双子の殺気の鋭さに、冒険者の動きが止まる。二人とも、冒険者の方を見もせずに、そのままスープを飲んでるけどね。


「なんだ、どうした。さっさと取って来い」

「い、いや、旦那……マズイですって」

「だらしないな、それでもB級の冒険者かっ」

「いや、そういう問題では」


 顔を青ざめている冒険者の方が気の毒になる。双子は殺気を飛ばすだけで、相手にするつもりはなさそう。仕方がないので、座ったままため息をつきながら、私がおっさんたちの方に目を向ける。


「おじさん、何偉そうに言ってるの」

「あ? なんだ、生意気そうな小僧だな」

「人から物をっていうのに、その態度はどうなのか、って言ってんの」


 何せ、中身はおばちゃんだからね。言いたいことは言っちゃうよ。

 それも、思い切り、大声で。


「なっ、め、めぐんでもらうだとっ!」

「だって、タダで貰おうというんだもの、っていうんじゃないの?」

「おお、なるほどね」

「でしょ?」


 呆気にとられてる強盗(仮)に、私の言葉に反応したのは、近くにいた別の乗合馬車の乗客。それにつられて、ざわざわと、皆が皆、話し出す。当然、良いようには言われないし、皆の視線は呆れたり、蔑んだり。


「くっ、そ、そんな不味そうなもの、いらんわっ! 行くぞっ!」


 護衛の冒険者の足を蹴りつけながら、ドタドタと去っていく強盗(仮)に、その場にいる人たちの視線は冷ややかだ。まぁ、自業自得だな。


「お騒がせしました~」


 立ち上がって、そう挨拶すると、他の乗客たちからは、パラパラと拍手が返ってきた。

 拍手されることではないんだが、と思いながら、椅子に座りなおしたところに、おずおずと隣の乗合馬車の乗客たちが近寄ってきた。


「あ、あの……」

「はい?」

「お金を払うので、少しだけ、分けていただけませんか」


 手にはそれぞれに小さな木のお椀。あー、やっぱり、そうなるか。

 これまた、自業自得な私。参った。

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