第244話

 街道を歩く旅人たちを追い越し、乗合馬車を追い越し、ものの三十分程度で、休憩場所らしきところに辿り着いた。私たち以外にも、同じように休憩に入っている馬車がすでに数台止まっている。


「うーん、仕方ないな、端の方に行くか」

「端じゃなきゃ、食べ物出せないわよ」


 何せ、この二人、屋敷での食事は、貴族らしく楚々とした感じで食べるくせに、私が用意したモノを食べだすと、歓声をあげずに食べることが出来ないのだ。ただでさえ、美男美女の有名人。すでに何人かから、こっちに向けられる視線がビシバシきている。これ以上、関心を持たれたくはない。

 私はさすがに黒髪黒目は目立つから、と、今日の護衛担当の風の精霊王様に、久々に緑の目にウェーブのある栗毛を一つに束ねた、学園に行ってた時の容姿に変化させてもらってる。格好が格好だから、男の子に見られているはず。恐らく、従者くらいの認識かもしれない。

 広場の端に行くと、馬から颯爽と降りる双子に、微かに黄色い悲鳴が聞こえた。


「ほら、ミーシャ」


 そんな声は完全無視で、ニコラス兄様が手を広げて待ってくれてるけれど、もう私も一人で降りれるのだ。だから、ニコラス兄様の手を借りずに、ポンッと一人で馬から降りた。


「ちぇーっ! もう俺の手は必要ないってか」

「ニコラス兄様、私も、子供じゃありませんから」

「イザーク兄さんには、任せるのに、俺は駄目なの~?」

「イザーク兄様にも、もう頼りませんよっ!」


 そんなやりとりをしながら、私たちは、食事の準備をする。

 私のアイテムボックスから、取り出したのは、組み立て式の木製のテーブル。一応、四人で食事が出来るくらいの大きさ。それに、木製の折り畳みの椅子。座るところは、船のマストに使うようなしっかりした生地にしてもらった。

 以前、森の家の庭で使えるようにと、私のあちらの記憶だよりで、村の木工所で作ってもらったのだ。試行錯誤の上、出来上がったのが、つい、一カ月ほど前のこと。ちゃんと、森の家で動作や座り心地は確認済み。できれば、あちらのキャンプで使うような大きな日傘も欲しかったけれど、さすがに、そこまでは手が出せなかった。

 この道具、素材になる木と、出来上がりの大きさが大きさだけに、ちょっとお高くなるらしく、リンドベルの冒険者ギルドで見本で置いてある程度だとか。持ち運びするにも、大きなキャラバンみたいなのか、冒険者でも私のアイテムボックスみたいなのを持っている人じゃないと、厳しいと思う。


「ミーシャ、早く、ポタージュスープちょうだい」


 私がまだ鍋を出してもいないのに、自分の木製の食器を取り出して、私のそばから離れないパメラ姉様。


「はいはい、ちょっと待ってね~。姉様、出すの手伝って。ほら、よっこいしょっ」


 まるで小学校の給食の時に使うような寸胴鍋をドスンっとテーブルの上に載せる。けっこう重量感あるんだけど、テーブルの方はビクともしない。ムフフ、いい感じ、いい感じ。


「ずいぶん作ったのね!」

「……二人が食べると思ったから」


 屋敷では、それなりにコース料理っぽいのが、続々と出てきていたけれど、私は全部なんか食べられなかった。しかし、この二人は、どこに入るんだっていうくらい、量を食べるのだ。それを見越しての、パンとハンバーグの量だったのよね、と、調理場で渡された時のことを思い出して、思わず遠い目になった。

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