第21章 おばちゃん、港町に向かう

第243話

 旅の始まりは、なかなか順調だった。

 リンドベル領からトーラス帝国に抜ける道は、本来は王都を経由していくのだけれど、冒険者の姉様たちは、思い切りショートカットして道なき道を突っ走った。

 天気もよし、魔物もなし(ここは、パメラ姉様が物足りなさそうだったけれど)、大きなトラブルもなし。三日も走れば大きな街道に出ることが出来た。


「おお、やっとまともな道だ」


 ヘロヘロになってる私。今はニコラス兄様の前に座ってる。最初は頑張って、パメラ姉様にしがみついていたんだけど、それも初日だけ。なんてったって、二人ともタフなんだもの! 休憩もほとんどなしで突っ走り、馬のほうが可哀相になるくらい。

 だから、さっそく転移で森の家に帰った。ちゃんと現在位置をマーキングした上で、姉様たちと馬たち、まるごと。


 ……旅立つ日の、あの気合はどこへ行った。


 自分でも初日にどうなの、とは思うけれど、彼らのパワーにはついていけなかった。

 でも、野営することを考えると、魔物のことを考えずにベッドで休めることの幸せなこと。お風呂にも入れたし。


 ……おかげで、翌日も姉様たちのパワフルな乗馬に付き合わされたけど。


「ここからは、ペースダウンね。さすがに、街道は爆走できないわ」

「そうしてください……他の人たちの迷惑になるから」


 げっそりしてる私の言葉に、姉様たちは大笑い。いやいや、笑えないですから。

 帝国との交易のための主要道路なのだろう。かなり大きな街道で整備もされている。馬車や徒歩の旅人の姿が多く見受けられるけれど、比較的、王都に向かうのが多そうだ。


「皆、帝国から離れようとしている人たちかな」


 まだ午前中だというのに、旅人の多くは疲れたような顔をしている。

 精霊王様たちのお仕置きは、まだレヴィエスタの近くまではきていないと聞いている。それでも、早めに難を逃れたい、と思うのが人情だろう。


「そうだね。あとは、教会関係かもよ。ほら、あの辺なんか団体で歩いてるのが、そうじゃない?」


 ニコラス兄様が指差す先には、少し薄汚れた感じの白いローブを羽織った集団が、王都の方に向かって歩いている。双子が私の頭の上で会話を続ける。


「帝国や他の国々から巡礼で向かってるんでしょ」

「何も教会の本拠地を、レヴィエスタに移さなくてもよかったのにねぇ」


 教皇様の胡散臭い笑顔が浮かぶ。

 そんなに悪い人ではない。政治が絡んでこなければ。しかし、ああいう立場上、いろんなしがらみがあるんだろう。そこに私を巻き込まないで欲しいんだが。


「もう少しいくと、休憩できるところに出るから、そこでお昼にしようか」

「ミーシャ、お昼は何?」

「ん? ハンバーガーと、ポテトのポタージュスープ」


 出がけに森の家で作ったヤツ。パンも挟むためのハンバーグも元々リンドベルのお屋敷で作ってもらったものを、アイテムボックスに大量に突っ込んできたのだ。トマトと葉物野菜は森の家で育てたのを挟んだ。取りたてで新鮮。トマトソースとマヨネーズは、私の作り置き。アイテムボックスが便利過ぎて、涙が出る。

 今朝、私がまともに作ったのはポタージュスープくらい。そのまま鍋ごと突っ込んでおいたのだ。食いしん坊のパメラ姉様は、期待で目をキラキラさせてる。


「もしかして今朝の!? ニコラス、急ぐわよっ!」

「パメラ……パメラ! もう……ミーシャ、しっかり掴まってろよ~」

「えぇぇぇ……ぎゃぁっ!」


 いきなり街道の脇の荒地に飛び出すパメラ姉様。その後を追うニコラス兄様。

 さっき、人の迷惑になるようなことはしないでって言ったのにぃぃぃっ!

 この双子の暴走を止められるのは、アリス母様しかいない模様……。

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