第242話
朝靄が煙る早朝。まだ薄暗い中、リンドベル家のドアが大きく開かれる。
そこには旅立つ私とパメラ姉様、ニコラス兄様の三人と、見送りに来てくれたエドワルドお父様とアリス母様、ヘリオルド兄様。そして、執事やメイドさんたちまで集まってしまった。さすがに、この時間にジーナ姉様と赤ん坊(名前はアルフレッドくん)はベッドの中だ。
「忘れ物はないか」
「大丈夫(身軽に見えても、全部アイテムボックスに入ってるもの)」
「無茶はしちゃ駄目よ」
「すると思う?」
「……そうね。するとしたら、双子の方ね」
「お母様!」
「それは俺じゃなくて、パメラの方だよね?」
「ニコラスも酷いっ!」
朝から賑やかなのは、さすがリンドベル家の面々なのだろう。
「そういえば、イザークには連絡したのか?」
周囲を見渡し、イザーク兄様の姿を探す、エドワルドお父様。
「まだ、例の件について連絡がないの。調べるのに時間がかかってるんでしょう。忙しくしているみたいだから、伝えてないわ」
リンドベル領に現れた黒い馬車の方は、家紋も何もないモノだった。『瘴気にまみれたモノ』の方も残骸はなく、明確な証拠は残っていなかった、と報告がきたそうだ。
ないない尽くしで、苛立ちばかり。だから、ちょっとイザーク兄様に八つ当たり気味なのかもしれない。
「ミーシャ……イザークが後で知ったら、嘆くぞ」
「うん? でも、お仕事もちゃんとやってもらわないとね」
「さすが、ミーシャだわ」
苦笑いするヘリオルド兄様に、アリス母様の方は呆れ顔。
「もし、こっちでわかったことがあったら、連絡くれます? ヘリオルド兄様」
「ああ、当然だ」
そう言うと、大きく両手を広げて、私をギュッと抱きしめた。
「いつでも帰っておいで。ジーナもアルフレッドも待っている」
「……ええ、必ず」
言われなくても、しょっちゅう帰ってきちゃうかも。
なんて胸の中で思いながら、私もギュッと抱きしめ返した。
「ミーシャ、私も……」
「お父様は、もう、いい加減にして」
パメラ姉様の呆れた声。実は家の中で、すでに何度も抱きしめられたのだ。エドワルドお父様とアリス母様に。それだけで身体が疲れちゃってる。
「そんなぁ……」
「もう……ほら、もう朝日が差してきちゃってるわ」
「とりあえず、今日中に、王都から帝国に向かう大きな街道に入りたいんだ。諦めて」
双子に諭されて、しょんぼりするエドワルドお父様を残して、私たちは用意されていた馬に乗る。一応、乗馬は少しだけ習ったものの、一人で乗れる自信はなく、パメラ姉様の後ろに乗った。
「気を付けて行っておいで」
「楽しんできてね。お土産待ってるわ」
「……何かあったら、すぐに連絡するんだぞ!」
三人の笑顔(エドワルドお父様だけ、ちょっと泣きそう)に見送られ、私たちは城を出た。
最初はゆっくりだったのが、徐々にスピードが上がっていく。
私は落とされないように、ギュッとパメラ姉様の腰にしがみつく。
「さぁ、一気に行くわよ」
「三人で旅なんて、初めてだな」
「よろしく~」
私たちは朝日に照らされながら、領都の石畳の道を駆け抜けるのだった。
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