第109話
私の言葉に、周囲は無言。いや、一人、イザーク様だけが呆然とした顔で「森の中……」と呟いてる。いけないのかなぁ、森の中。よっぽど強い魔物でもいない限り、安全だと思うんだけど。むしろ、人間の方が怖いわ。
「えーと、ミーシャ。それは王都では暮らしたくないってことでいいかしら?」
「そうですね。なんか、社交界的なものには関わりたくないです。まぁ、私は貴族でもなんでもないんで、関係ないでしょうけど」
「いやいやいや、『聖女』ってだけで、そこらの貴族なんかよりも、身分は上だからね。下手すれば国王様だって、『聖女』の言うことを聞くことだってありえる」
アリス様が確認するように聞いてきたから、その通りと答えたのに、突っ込んできたのはなぜだかニコラス様。
「え、身分が上だからって、王都に住まなきゃいけないんですか?」
「……ミーシャの場合、国に縛られることはないと思うけど、貴族の中にはそう思わない者も少なくはないよ」
「はぁ……」
リンドベル家だって貴族ではあるものの、彼らはあまり私を縛ろうとはしていない。むしろ、彼らにはアルム神様から私を預けられた、という誇りのほうが強いのかもしれない。
「万が一、煩そうだったら……皆さんには申し訳ないですが……さっさと一人で逃げますんで」
うん。シャトルワースからだって逃げてこられた。途中からは一人ではなかったけど。短くはない逃亡期間に、それなりにこの世界のことも学んだ気がするし。おかげで、私には逃げようと思えば逃げられるっていう自信にはなった。
「ミーシャ!」
「そんなこと言わないで」
「大丈夫、私たちが貴女のことは守るから!」
おっと。なんか、みんなが必死に引き留め始めた。まだ、逃げるとは決まってないのに、この反応じゃ、王都の様子が知れるというもの。明日には、王都に向かうって言うのに、心配になるじゃない。
「その時は、私がミーシャとともにあろう。必ず、お前を守るから、逃げ出すなら、まずは私に言うのだ」
真剣な顔で言い出したのはイザーク様。
近衛騎士という、せっかくのいいお仕事、棒に振るとか、もったいないんじゃ、と思って、そう言おうと思ったら、その前にエドワルド様が叫んだ。
「イザーク、よく言った!」
「そうね、イザーク、あなたが必ず守りなさい」
「兄さま、その時は私も呼んでよ」
「そうそう、僕たちも応援にいくからさ」
……冒険者家族、無責任なことを言ってはいないか。
リンドベル辺境伯という立場は、大丈夫なのか? 私はびっくりしながら、ヘリオルド様に目を向けると、苦笑いしながら、頷いた。
「まぁ、そうだな。万が一の時にはイザークを頼りなさい。そして、我らリンドベル家を頼りなさい。私たちは、これでもこの国ではそれなりに力はあるのだから」
「……ヘリオルド様」
まだ何が起きると決まったわけでもないのに、皆が必死過ぎて、なんか泣きそうになる。血は繋がっていないのに、本当の家族みたいだ。
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