第308話
イザーク兄様が復活するのにかかった時間は、二、三分ほどだったろうか。
「はっ!? わ、私が幼女趣味……」
うん、気付いていなかった模様。というか、誰も指摘してこなかったのか。オズワルドさんやカークさん、従者でしょ。近くにいたなら、注意してあげなきゃ駄目じゃないの。
「いやぁ……イザーク兄様が、まるで私へのプロポーズみたいなこと言うからさぁ」
困ったような顔をしながらそう言うと、イザーク兄様はポッと頬を染める。
マジか。
「……私はそのつもりなのだが」
おいっ!
「はぁ……本気ですか? 私、見た目が12歳なのに(ここは譲れない)」
「イザーク兄さん、ミーシャの見た目、わかって言ってます? どう見ても十歳ですよ?」
「(十歳じゃないわいっ!)だから幼女趣味なのかって聞いたのに」
私とパメラ姉様の言葉に、ようやく、本当にようやく、私の姿が目に入った模様。頭の先から足の先(布団に隠れているけれど)までを見て、サッと青ざめる。
「そ、そんなことはない! わ、私はミーシャにしかときめかない!」
……うん、二十代半ばの男性が言うセリフじゃないよね。ときめく、とか。
私は遠い目になりながら、天井を見つめる。絶対、おかしい。こうも私限定だと、縋りつくように言うイザーク兄様。まさか、私が無意識に魅了でもかけているのだろうか。いや、私のスキルや使える魔法には魅了はなかったはず。
そして、思いつく。
――まさか、アルム様!?
そう思っただけで、彼が「てへっ♪」と舌を出してお道化ている姿が頭をよぎった。あの人が、何かやったに違いない!
私がわなわなと手を握りしめて、内心憤っている間、双子とイザーク兄様の会話は進んでいく。
「兄さん、皆心配してたんだよ」
「そうね。どう見ても、ミーシャに対する接し方、普通じゃなかったもの」
双子が懇々と説明をしていく。第三者視点で見ると、だいぶヤバかったらしい。この世界でも、成人前の子供に対してどうこう、というのは、犯罪者に近い扱いになるのだとか。
そして、家族たちから見ても、イザーク兄様、犯罪者、一歩手前に見えていたらしい。私とイザーク兄様との接点が、ほとんどがリンドベル家などの身内の中でだったから、他の人が知ることはなかったかもしれないけど。
……よかったね、犯罪者にならなくて。
双子の説明で、口から魂が抜けていくような顔になっているイザーク兄様。
「……イザーク兄様」
「……はい」
あまりにもしょんぼりしている姿に、気の毒になっていく。未確定ではあるものの、普段冷静でデキる人なイザーク兄様が変になるのは、アルム様のせいかもしれない、と思ったら、強く言えなくなる。
そりゃね、二度目の人生、イケメンとの恋とか、憧れないわけではない。いくつになっても、心の中には乙女な部分はあるんだもの。しかし、しかしなのだ。
「幼女趣味は嫌」
ガーン、という効果音が聞こえてきそうなくらいショックな顔に、プッと、笑いが漏れる。私ではない。ニコラス兄様だ。
「よ、幼女趣味ではない、はず、なの……だが」
「うん、だったらね……私がもう少し大きくなってから、その時になっても、その……プ、プロポーズしたいと思うなら、プロポーズしてください」
「し、しかし、それより先にミーシャが他の誰かと婚約してしまったら!」
いや、ないでしょ。無理矢理婚約とかできないし、させるつもりもないし。それに、私がイザーク兄様以外に、誰か好きな人ができてしまったら、それは、それ。イザーク兄様、ごめんなさい、というだけの話だ。
……今は、ちょっとだけ、イザーク兄様、かわいい、と思ってるけど。
「私、しばらく、婚約だとか結婚だとかは、考えたくないんだよね。むしろ、もっと、色々、見て回って、この世界を満喫したい」
私のこの言葉に、イザーク兄様はどこかホッとした顔になる。
「むしろ、イザーク兄様の方が、年齢的にも早く結婚を考えなきゃいけないのでは?」
「そのつもりはない」
被せ気味に否定してきたイザーク兄様だけど、人の気持ちはわからないからねぇ。
「とにかく……私はもう近衛騎士は辞してきた。戻るつもりもないし、ミーシャの護衛として、共に旅がしたいのだ」
キラキラした眼差しで再び見つめられたら、もう、ため息しかでない。
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