第307話
固いパンをなんとかちぎって、スープにひたしている私に、パメラ姉様が心配そうに声をかけてきた。
「ミーシャは兄さんのこと、嫌い?」
「えっ、あ、っと!?」
いきなりの質問に、ボトンっとスープにパンを落としてしまう。おかげで掛布団にスープがはねてしまった。
「そんな驚くほど嫌いなのかぁ」
「いや、そうじゃないでしょ。いきなり、そんなこと聞くからじゃない」
焦りながら、私は『クリーン』で汚れを落とす。まったく、考えなしに、聞かないでほしい。
「え、じゃぁ、好き? 好きなの?」
身を乗り出して聞いてくるパメラ姉様に、呆れる私。
「あのねぇ……イザーク兄様のことは、そりゃ、こっちに来てから散々お世話になってますし、時々、めんどくさいな、と思うことはあるけど、嫌いになるほどじゃないよ。ただねぇ、見た目はこんなだけど、私は中身は五十近いおばちゃんなの。あんな若くて未来のある若者とどうこうとか、ちょっとねぇ」
そう。なんだかんだいったって、私はおばちゃんなのだ。おばちゃんとイケメンの若者とか、誰得な話?、なのだ。
若干、胸にチクリとするものがあるけれど、現実的ではないだろう。そう思う。
スープがたっぷり沁み込んだ固かったパンを、はむっと口にする。パメラ姉様は呆れたように言う。
「五十近いおばちゃん、って、どう見たって十歳のお子様じゃない」
「ふむっ!? じゅ、十歳!?」
「え、あれ。自覚なかった? 私たちから見たら十歳児。それに、五十って言うけど、例えばさ、獣人の五十歳は、私たちの二十代半ばと変わらないのよ? エルフに至っては、下手すれば赤ん坊扱いされるわ」
いやいや。種族違うでしょうが。私、一応、人族のはず。はず?
というか、十歳なの? すでに、こっちに来て一年以上なるし、身体年齢的には十三歳くらいのはずなんだけど。成長してないのか!?
「何を気にしてるか知らないけど、私たちからしたら、おばちゃんでもなんでもないんだからね?」
う、うむぅ。そう、なのか? なんか、力説しているパメラ姉様に困惑しながら、パンを食べようとして固まる。
「……ねぇ。中身の話は置いておくとして」
パメラ姉様に目を向けて、私は真面目な顔になって言う。
「イザーク兄様って、幼女趣味なのかな」
その言葉に、パメラ姉様はすぐに目を逸らす。あ。やっぱり、パメラ姉様も考えてたんじゃない。
――いや、さすがにないわー。ロリコンはないわー。
遠い目になりながら、パンを咀嚼しているところでドアが勢いよくノックされる。これ以上話したくないだろうパメラ姉様がすぐにドアに向かう。
入って来たのは、まさに、当のイザーク兄様本人。その後ろにニコラス兄様。二人ともが心配そうな顔をしていたので、片手をあげて一応元気とアピールする。
「ああ、よかった」
さすが足長イケメン。あっという間に目の前にしゃがみ込んで、見上げてくるんだけど、私の頭の中では、すでにイザーク兄様がロリコン化している。思わず、ジリジリとベッドの上で腰を引く。
「ミーシャ、大丈夫かい」
「う、うん」
ニコラス兄様は苦笑いしながら、パメラ姉様と並んで立っている。止めないのか、止めないのか!?
私は大きくため息をつき、イザーク兄様に目を向ける。目があった途端に、嬉しそうに微笑む兄様。う、うーむ。どうしようか、と迷ったのは一瞬。
「あのね、兄様」
「なんだい。ミーシャ」
「……兄様は幼女趣味なの?」
ニッコリ笑いながら言う私の言葉に、兄様は固まった。
***
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