第306話

 目を開けると、知らない天井があった。

 少し古ぼけた板張りの天井。横を見ると、あまり上等とはいえないくすんだクリーム色のカーテンが下がった窓。日差しがあるから、今は昼間なのだろう。見回すと、隣にもう一つベッドあって、そこそこの部屋の広さ。どこかの宿屋か何かだろうか。

 もう一度、目を閉じ、何があったか思い出す。


 ……お馬鹿イザークが、プロポーズもどきなことを言いやがった。


 あまりにも唐突な言動を思い出して、顔が赤くなる。

 今まで生きてきて、プロポーズなんて、夫から受けた一度きり。それも、場所なんて、当時独り暮らしをしていた私のワンルームの部屋で、二人で並んでテレビを見ながら。あまりにも、サラッと「結婚しようか」と言われて、そのままの流れで「うん」と言っていた。今思っても、なんの情緒もない、ドライなプロポーズ。

 それと比べるのも、どうかとは思うけど、あんな王子様みたいなイケメンに見つめられながらなんて、どこかのドラマか何かかいっ! と、ツッコミたくなる。しかし、中身はおばちゃんとはいえ、いくつになっても乙女な気持ちはあるわけで……。


 ……いや。いやいや、ありえないから。


 確かに、散々、可愛がってもらっている認識はある。見た目が、こんな子供だから、年の離れた妹のような感覚なんだろうと思っていた。実際、彼は、私の本来の年齢だってわかっているはずなのだ。見た目は、こんなだけど。


 ……まさか。

 ……まさか、イザーク兄様は、ロリなのか? ロリコンなのか!?


 カッ! と目を見開いたと同時に、部屋のドアが開いた。


「……ミーシャ? 気が付いた?」


 パメラ姉様の声に、ドアの方へと目を向ける。木のトレーに小さな固そうなパンに、小さな木の皿が載っている。私は慌てて身体を起こす。


「ごめんなさいっ」

「あー、いいの、いいの。無理して起きないで」


 ベッド脇の小さなテーブルにトレーを置くと、私の額に手を置く。


「熱はないね……気分はどう?」

「大丈夫……若干、混乱はしてるけど」

「はぁ……イザーク兄さんが、ごめんね」

「あははは……イザーク兄様とニコラス兄様は? というか、それよりも、ここは」

「ここは、あの森の近くの街よ。イザーク兄さんがここを案内してくれて助かったわ。荷物はミーシャに預けてたから、野営も出来ない状況だったから」

「ああ……ごめんなさい」


 便利になんでも突っ込み過ぎてた。失敗、失敗。

 とりあえず、兄様たちは冒険者ギルドに顔を出しに行っているらしい。ワイバーンもこの街で引き渡した模様。そこそこ大きい街ではあるものの、やはり、帝国の中。精霊王様の怒りの影響で、土地が痩せてきたこともあって、人が減っているそうだ。 

 この宿も他の客もいないそうで、私たちの貸し切り状態らしい。


***


 いよいよ、明日が発売日となりました!

 書籍という形になって皆さまのお手元に届いて、楽しい時間を過ごしていただければ幸いです^^

 よろしくお願いします^^

 

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