第305話

 合流して早々、イザーク兄様に抱きしめられて、死にかけた。


「ああ! 元気だったか!」

「……今、この状況で、それ言う?」


 ツッコミ入れたのはパメラ姉様。私? 私はイザーク兄様の腕の中で白目むいてる。


「兄さん、ちょっと、落ち着こうか」


 黒い笑顔のニコラス兄様に肩を叩かれ、ようやく正気に戻ったのか、私が気を失いかけてるのに気付いて、焦りだす始末。


「す、すまん、ミーシャ……」


 今、目の前いるのは正座してしょんぼりしているイザーク兄様。大柄な身体が一回りくらい小さくなって見えるから、面白い。

 周囲は木々に囲まれた森の中。私がいるからか、魔物の気配はないけれいど、鳥の鳴き声は聞こえてくる。


「で、兄さん。なんだって、こんな所に来たんです?」

「帝国に何か用事でもあるの?」


 両腕を組みながら兄様の前に立って、問いかける双子。

 しかし、兄様の視線は私に向けられていて……なんか、目の前にレトリバーみたいな大型犬がいるみたいに見える。


「……ハッ!まさか、帝国のあの女性に会いに……」


 すっかり忘れていたけれど、確か、魅了の魔法を使った女性は、イザーク兄様の古い友人だった。あんなことにならなければ、ずっといい友人であり続けたかもしれない、と、カークから聞いていた。その彼女が今、どうなってるのかまでは、知らないけど。


「なっ!? ち、違うぞっ! ミーシャを守るために決まってるじゃないか」

「……いや、私には精霊王様たちがいますし」

『そうよ~』


 今日の担当の水の精霊王様がポヨンッと現れる。イザーク兄様は驚きもせずに、頭を下げて挨拶をする。


「わかっております。貴女様方がいらっしゃれば安全なのは。しかし……攻撃というのは、魔法や物理的なものばかりではございません」

「イザーク兄さん、それなら、俺たちでも」

「冒険者を続けながらかい?」

「ええ」

「お前たちのレベルに、ミーシャをずっと付き合わせるのか?」

「い、いや、そういうわけじゃ」


 うむ。確かに、双子とともに冒険の旅は楽しいは楽しいが、毎回、高ランクのダンジョンに付き合わされるのはなぁ。それに強い魔物がいるところとか、精神的に疲れそう。


「ミーシャ、私も冒険者のランクを取得してきたんだ」

「へ?」

「ランクはEだから、ミーシャと一緒だ」 


 ニコニコしながら、鈍く光るギルドカードを出して見せる。


「えっ、まさか、兄さんが!?」

「この年で、まさか冒険者になるとは思わなかったが」


 少し照れ臭そうに言うイザーク兄様に、唖然としていると、兄様が片膝になって私の目の前に跪き、私の手を大きな手で包み込む。自分の手が小さいのを自覚させられる。どうせ、小さいわい。

 ちょっと、ドキドキするのは、仕方がないと思う。格好は冒険者の地味な格好だけど、イケメン兄様がやると、なぜか王子様チックになるのは、どうしてだろう。いや、他のリンドベルの男性陣も、凄いイケメンなんだけど。 


「ミーシャ、どうか、私を拒絶しないでおくれ。私は、お前を一生をかけて守りたいのだ」


 ……ねぇ。これって。普通は、プロポーズの言葉じゃない?

 私は理解不能で、頭から湯気を出して、倒れこんだ。

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