第304話
そもそも、『出張依頼』ってなんなんだ。
よく読むと、以前からウルトガ王国から聖女の訪問を打診する声があったのだとか。そんな中、今回、ウルトガ王国の王太子直々にレヴィエスタに訪問があり、聖女訪問の依頼があったのだそうだ。ウルトガ王国を訪問して、そちらの教会で祈りをあげて欲しいらしい。
聖女の話がウルトガ王国まで届いていたのは、イスタくんの話を聞いていたから、なるほど、とは思ったけれど、わざわざ、国にまで呼ぶかな? 他の国からも、その手の話は来ていてもおかしくはないだろうに、今まではそんな話は聞いたことがない。もしかしたら、ヘリオルド兄様あたりが、断っていたのかもしれない。
それなのに、今回は私に直接、手紙が届いた。
送り主は、このボリュームからして、魔術師団長あたりを使ったのかも。国王陛下も宰相も、そんなに魔力が高い人ではないから、この長さの手紙は送れない。
命令書という形ではないのは、私がレヴィエスタ王国の国民ではないからだろう。
言葉ではリンドベル家の一員のように、兄様、姉様、などと言っているけれど、養女になったわけではない。
そう、私は、ただのミーシャのままなのだ。
あくまでも、リンドベル辺境伯家は、後見人というだけ。だから、王都関係の窓口はヘリオルド兄様が請け負ってくれていたのに、直接送ってくるなんてね。
……それだけ、切羽詰まっているということなのだろうか?
「これってさ、ヘリウスたちに届いた手紙に関係あると思う?」
それでも、冷ややかな目で手紙を見てしまう私。
「タイミング的には、あると思う」
「うん、確か、今のウルトガの王太子、国王陛下と知り合いだった気がする……ほら、帝国の留学の時期が一緒だったりとかさ」
「なるほどね」
でも、あくまで『依頼』だ。
「イザーク兄様も、これにかかわってるのかな」
「どうかなぁ。きっと、王都離れてからでしょ、このウルトガの話だって」
「そうよ。それに、イザーク兄様は、もう近衛騎士じゃないし。王族の命令に従う理由はないわ」
「え、でも、王家からの命令だったら、絶対なんじゃないの?」
「私たちは辺境伯家よ。どんなに王家に力があったとしても、まずは当主である辺境伯に話を通さなければ、ならないの。あの辺境を守護する一族には、それだけの権利が許されてるのよ」
「……ほぉ」
「ミーシャの場合は、我が家の庇護下にあるから、という理由だけど、今回は、なりふり構っていられなかった、ということなのかしらね」
構ってくれよ、と愚痴ると、双子は苦笑いを浮かべる。
そしてタイミングよく、青い鳥が現れた。今度は、小さな可愛らしいサイズ。エドワルドお父様からの答えは『国を出た』だけ。おいっ!
「……父様らしいけどさ」
「まぁ、辞めたことはわかってるのよね」
「もう、何やってんだか」
私は大きな溜息をつく。さて、どうしたものか。
正直、国の言う通りに動くのは、なんだか癪だ。『出張依頼』にもう一度目を通す。一応、出張にかかった費用と、何かしらのお金はいただけるようだけど、それについては、王都で話をしたいらしい。今更、レヴィエスタに戻るの?
「嫌だなぁ」
「断る?」
「あー、ウルトガに行くのは、まぁ、アリかな、とは思うの。子供の獣人……特に猫系の子とか見てみたいし」
「フフフ、猫、好きよね」
あまり森の家に長居しないから、ペットとして飼えないのは、あちらにいた時と同じ。だから、時々、薬屋の近所の野良ちゃんに、こそっとエサをあげていたことはある。
まぁ、獣人の猫系が、どんなのかわからないけれど、狼系のイスタくんみたいに、かわいいと期待したい。
「その前に、イザーク兄様と合流しましょ。なんか、色々、面倒なことになりそうだし、ここは元近衛騎士に頑張ってもらいましょうか」
私はイザーク兄様に伝達の魔法陣で連絡をとった。すると、すぐに地図上のワイバーンの動きが変わる。真っ直ぐに王都に向かっていたのが、最寄りの町のあるほうに曲がったのだ。
「さて、兄様から返事が来たら、あちらに行きましょうかね」
私たちは休憩所から出ると、厩舎に預けていた馬を受け取りに向かった。
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