第231話

 いきなり現れたミニチュアサイズの火の精霊王様に、部屋の中にいた面々がびっくりする。私も驚いて立ち上がる。


「なってない! なってない!」


 私の考えてることを見透かすとか、やめて!


『なんだ、いつでもいいんだぞ。私たちに任せておけば、あんなのちょちょいのちょいだ』

「火の精霊……ですか?」


 呆然とした声を上げたのは、私兵団の団長さん。精霊王様たちの姿を見るのは、初めてだったかもしれない。そういえば、いつも護衛的に光の球になっているだけだし、本来の姿になることも稀だったか。


『失礼な! 私は精霊王だ!』

「そのサイズじゃ、見えないって」

『なんだと!』


 思わずツッコミを入れたら、大きいサイズになる火の精霊王様。部屋の天井に頭がつきそう。ふんすっ、と鼻息荒く胸をはる姿に、私を除く全員が膝をついた。精霊王様相手に、礼をとるのは当たり前か。


「もう……精霊王様、子供みたいなことしないでください」

『美佐江、冷たいことを言うな』

「……さすが『聖女』様。精霊王様を使役されているのですね……もしかして、奴らは『聖女』様の、このお力を求めているのでは」

「使役なんてしてませんよ。団長さん。護っていただいているだけです」

『美佐江は我々の愛し子であるからな』


 火の精霊王様の大きな掌が、私の頭を撫でる。皆、本当に私の頭が好きなのね。


「でも、私たち以外で精霊王様たちが姿を現わしたのは、教会関係者の前か、トーラス帝国での事件の時くらいしかないし……」

「帝国か……」


 ヘリオルド兄様の渋い声。ついこの前のことだから、嫌な気分になるのはわかる。

 そして、私と火の精霊王様は、兄様の言葉に目を合わせる。まさかと思う展開が、頭に浮かんでしまったのだ。


「今更だけど、兄様」

「なんだい」

「帝国の皇太子、実は新興宗教と繋がってたりしてないかな、なんて思ったり」

「……まさか」


 私の言葉に、兄様たちが愕然とした。

 しばらく、無言の時間が過ぎる。兄様は目を閉じながら考えをまとめようとしているようだ。そして、意を決したように目を開く


「もし。もし、そのような繋がりがあるなら、普通なら、自分の息子を教皇に祝わせることはしないだろう。常識的に、自分が信仰している宗教で洗礼を受けさせるものだからな。それに教会の力は強力だ。この大陸のほとんどの国々で尊ばれる存在でもある。だから改宗するという選択肢は国の長になる者としてはありえない」

「でも、結局、『聖女』を侮って、教会側から見限られましたよね?」

「いや、しかし」

「ん~、例えば……新興宗教側から、すでに教会の力を削ぐ見込みがあると言われてた、とか。『聖女』である私を自分たち側に巻き込めば、とかなんとか言われたり? 相手は子供だ、とか、帝国の力があれば可能だ、とか、調子のいいこと言われてその気になったとか」

「……そこまで愚かではなかろう」


 でも、自分の力を過信してた可能性はある。うまいこと皇帝を寵姫に溺れさせて、実権を握った状態だったように思うし、もしかして、それだって、その新興宗教からの協力があった可能性だって。


「まぁ、そもそも、どこかから漏れた、なんていうのもだけど、想像だけだったらいくらでも可能性なんて出てきそうだけどね」


 大きなため息をつく。

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