第232話

 何はともあれ、しっかりした調査が必要だと思う。それはリンドベル家だけでは足りない気がする。相手は宗教関係。それであれば、と兄様に提案する。


「とにかく、色んな可能性を考えて調べたほうがいいと思うんです。とりあえず、一度、教皇様には話をしておいた方がいいと思うんですが」


 レヴィエスタの王都にいらっしゃる教皇様。すでに伝達の陣でお手紙をやりとりする間柄にはなっているので、すぐにでも一報を入れることはできるのだ。

 それにしても、彼ら新興宗教のことを教会はどうとらえているんだろう。

 私が彼らを知ったのは、あの自称『聖女』の侯爵令嬢のことを知った時。でも、それ以降、私の耳に入ってくることもなかった。たまたま、レヴィエスタという国にはあまりいなかっただけで、他国では信者を増やしていたのだろうか。

 今日みたいに、彼らがこんないきなり接触してくるとか、リンドベル領内でも、実はかなりの数の信者がいたりするんだろうか。

 そういうことも教会では把握してたりするんだろうか。

 色々と聞きたいことが浮かんでくる。


『それであれば、私があの者に伝えて来よう』

「えっ!? 風の精霊王様!?」


 現れたのは、風の精霊王様。突然すぎて、兄様たちが固まっている。

 もう! 火の精霊王様のサイズに合わせなくてもいいのに。一人増えただけなのに、執務室の圧迫感が半端ない。

 それにしても、このいきなりな登場、まさかと思うけど、私に見えないだけで、いつも張り付いてるとか? 過保護か? いや、ストーカー? ストーカーなのか?

 本来なら、すぐに現れて護ってくれるのだから、ありがたいと思う。そう、ありがたいはずなんだけど……微妙な気持ちになるのは、なぜだろう……


『おお、風の。頼めるか』

『ふむ、あちらにはついでがあるからな』

「ついで?」

『……秘密だ』


 どんな『ついで』があるのか気になるところ。ニヤリとした顔はいつになく悪そうで、何をするつもりか。


「何をやらかすつもりです?」

『フフフフ、大丈夫。美佐江に迷惑はかけない』


 精霊王様のその言葉、素直に信じられないんですけど。

 そんな私の気も知らず、ヘリオルド兄様は、ありがたがって頭を下げる。


「お、恐れ入ります。風の精霊王様、何卒宜しくお願い致します」

『うむ、任せておけ。その代わり、ヘリオルド、美佐江を頼むぞ』

「はっ!」


 ヘリオルド兄様の返事を聞いて、ニコリとすると、シュンッという音とともに、風の精霊王様の姿は消えていた。

 もう不安しか感じないんだけど!


『私がいるから、お前の出番はないと思うんだがな』


 火の精霊王様が、少しだけ拗ねていたのは、ご愛敬、だと思う。

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