第262話

 ニコラス兄様がドアのところまで行って誰かと前で問いかけると、この船の船長だという。何かあったのかと、ドアを開けると、そこにいたのはニコラス兄様より少し背の高い、随分と体格のよさそうな渋い感じの髭面のおじさん。立派な上着を着ていて、なかなかいい男である。


「おくつろぎ中のところ、申し訳ない」

「いえ、何かありましたか」

「先程の戦闘でのご助力に感謝をと思いまして」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」


 通路の方から、ワイワイ、ガチャガチャと外の音が聞こえてくる。後片付けをしているのだろう。そんな場所で立ち話もなんなので、一旦、室内に入ってもらうことにする。私はお茶を淹れに、水の精霊王様はいつも通りに小さな光の玉になって、私の後をついてきた。


「冒険者ランクA級のリンドベル家のお二人が乗船していただいていて、本当によかった」


 船長の本当にホッとしたような声が聞こえてきた。事前に、船長には乗客の情報がいっていたのか、それとも、リンドベル家の名声が凄いのか。ちゃんと把握していたあたり、しっかりした船長なのかもしれない。


「今回は、さすがにマズイ相手だと思ったのです」


 どうも、ヨレウ群島の中でも最悪で有名な海賊の船だったらしい。一応、討伐対象にはなっていても、なかなかに神出鬼没な上、領主の私兵たちですら、押し負ける強さだったとか。私が見たのは、あのガラス窓越しの醜い男だけだったので、どの程度だったのかわからないけれど、船長が言うのだから、相当だったのかもしれない。


「ですが、まさか相手を壊滅させることができるとは……その上、海賊船まで押さえて、一緒に曳航までしていただけるとは思いもしませんでした。あれは精霊魔法というものなのでしょうか……部下たちから聞きましたが……」


 水の精霊王様がいたとはいえ、それをやっつけちゃう双子の実力って、絶対におかしい。ところで、『曳航』って、どういうこと?

 チラッと水の精霊王様の光の玉に目を向けると、小さな声で答えてくれる。


『どうせだったら、沈めてしまうより、持ち帰った方が何かといいのではなくて?』


 ……まぁね。まだ使える船というのなら。

 この世界、あちら以上に大型船を作るのも大変なのだ。それに、氷漬けにした奴らと、まだ息のある海賊たちを簀巻きにして、そっちの船に乗せているとか。私たちが乗っている船に乗せて、定員オーバー気味なんて危なくて仕方がない。

 その海賊船を誰が操舵してるのかと思ったら、自動操縦だって。水の精霊王様、どんだけ万能なの。船長はそれを、兄様がやってるっていう風に解釈しているということのようだ。兄様もニッコリ笑うだけで、あえてはっきりとは答えていない。色々と面倒なことになりそうだものね。


 ところで、これから向かうヨレウ群島の中の中心地、どうも帝国の属領となっている所らしく、そこに連中を連れていくことになるらしい。元々、そこを経由していく予定の場所だったそうだ。

 私はソファに座っている三人の前に、ティーカップを置くと、双子の背後に立つ。船長はそんな私には目もくれない。


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