第30話

 お姉さんが戻ってくるまで、周囲を観察しようかと思ったら、すぐに戻って来た。


「はい、では、こちらがギルドカードです」


 差し出されたのは名刺サイズに薄い鉄製のカード。

 表には私の名前の『ミーシャ』と一番下のランクであるGの文字だけ。裏側はまっさら。


「裏にはこれからこなしていくクエストの実績が表示されるようになります」


 淡々と説明を続けるお姉さん。どういう仕組みか具体的には教えてもらえなかった。なにせ、私の後ろでも待ってる人がいるしね。


「クエストはあちらの壁に貼りだしてありますので、希望のクエストがありましたら、その紙をとってから、こちらに申請してください」

「あ、はい。わかりました」


 ペコリと頭を下げて、私はすぐさま席を立ち、そのクエストの貼りだされている壁を見に行く。

 ランクが高いモノほど受付のそばにあり、低いのは入口のそばに固まっているようだ。クエストの量も高いモノはそれほど多くもない。王都に近いこともあって、危険度が低いということなんだろうか。

 私のランクであるGは薬草採取の他に、店番とか配達とか、冒険ともいえないような内容も多い。それに相応しく、貰える報酬も少ない。そもそも、このランクは子供が対象になってるんだろうなぁ、とクエスト内容からも想像できる。

 とりあえず、身分証となるカードを手に入れられて、一安心だ。

 相変わらず、他の冒険者からの視線を感じるものの、誰も声をかけてくるわけでもないので、さっさとここから出ていくに限る。


 私は重いドアを開けて外に出てみると、すでに空も赤く夕焼けに染まっている。あまり遅くなる前に、宿屋に戻ろうと思っていると、乗合馬車の集まってるロータリーで人だかりが出来ていた。


「どうしたんだろ」


 トラブルだったら巻き込まれたくはないけど、ちょっと確認だけはしたいかも。人気のない脇道に入ってから、隠蔽スキルを発動する。これで、誰にも気付かれないで話だけは聞けるはず。

 近づいてみると、御者さんや冒険者さんたち相手に、話を聞いている人がいる。年齢は三十代くらいか。黒ずくめの格好で見るからに悪そうな顔してる。


「他にはいないか」

「ん~、髪の短い女の子だろう? そんなのがいたら、誰でも気付くだろうに」

「短くするなんて、修道院にでも入る予定だったのかね」

「うちのには、そもそも若い女の子なんか乗ってなかったしなぁ」

「……そうか」


 まさか、まさか。

 私、探されてたりする?

 ちょっと、胸がドキドキしてきた。

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