イザーク・リンドベル、少女と共にあることを願う(2)

 謁見の間についてみれば、レヴィエスタ王国国王、アレンノード二世様が玉座に不機嫌そうな顔で座っていた。周囲には重臣といえる方々が、私たちの方へと一気に視線が向けられる。そんな視線を気にすることもなく、王子たちは国王の側へと向かい、私は国王の目の前で膝をつく。


「イザーク・リンドベル、ただいま帰還いたしました」

「イザーク、随分と戻りが遅かったな」

「はっ! 申し訳ございません」

「言い訳をしてみろ」


 すでに、ヴィクトル様経由で連絡を入れていたはずではあったが、重臣たちの目の前で報告をさせたいということなのだろう。あの不機嫌そうな様子は、私に対してではなく、おそらく、シャトルワースに対してであろう。


「はっ……我が兄、リンドベル辺境伯から緊急の連絡がありまして」


 私は、義姉が神からの神託を受け、聖女を救出することを依頼されたこと、シャトルワース国内のどことは言わないが、とある町で見つけることができ、共に我が国へと連れて帰ってきたことを伝えた。


「なんと……確か、リンドベル伯夫人は……その、体調を崩されているとか」


 遠慮気味に聞いてきた重臣の一人がいたが、私はにっこりと笑みを浮かべて答える。


「はい。しかし、聖女様のお力で、全快いたしました。ありがたいことでございます」

「そうか、今は、リンドベルのところにいらっしゃるのか……これは、一度、我が国におられることを、周辺国にも知らしめねばなるまいな……なぁ、宰相」

「はっ! 特に……シャトルワースには、自国にありながら聖女様を保護できなかったことを批難せねばなりませんな……聖女様は、ご無事であったのだろうな」

「はっ! 幼い身なれど、その見た目に似合わず、大変、賢き方にて……」

「左様か……」


 国王は一瞬考えたようだが、すぐにニヤリと笑った。その様子は、長男のレイノール様とそっくりだ。


「イザーク、これより辺境伯へ手紙を用意する。すぐに、リンドベル領へと戻り、聖女様をお連れしろ……そうだな、できるだけ早く……遅くとも三日以内」

「はっ! 畏まりました!」


 国王の言葉に、内心喜んでいる自分がいる。再び、ミーシャの傍にいられる。今の私には、それがどれだけ幸せなことか。口元が自然と緩みそうになるのを、必死に押さえながら、謁見の間を出ていく。深い赤の絨毯を敷いた廊下を歩く足が、自然と早くなっていく。


「イザーク様、近衛騎士団へのご挨拶も忘れないでくださいね」

「わかってる」

「エッケルス騎士団長にも詳しい報告をしておかないと」

「……」

「イザーク様!?」

 

 私の頭の中はミーシャのことでいっぱいで、オズワルドたちの言葉は、あまりまともに聞いていなかった。結果、私の後ろをオズワルドとカークが残念そうな顔でついてきていたようだが、私は気にしないことにした。

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