閑話

イザーク・リンドベル、少女と共にあることを願う(1)

 無事にリンドベル領に戻ったというのに、翌日には、すぐさま王都に向かわなくてはならなくなった。オズワルドに襟首をつかまれ、カークには笑われながら、転移陣に連れ込まれた。一瞬で王都の屋敷についてしまうのが、便利さの弊害だ、とつくづく思う。


「イザーク様、まずはヴィクトル様に帰還のご挨拶をした後、近衛騎士団に顔を出さねば。一カ月以上、離れていたのです。きちんとご報告しないと。特に……ミーシャ様の件もありますし」

「わかってる」


 屋敷の転移陣の間は無人で、ぼんやりとした灯りのみ。領都の城のものよりも狭い部屋を出ると、上りの階段を上がっていく。


「イザーク坊ちゃん!」


 セバスチャンの弟、王都の屋敷の執事、ギルバートが慌てたように階段の上に現れた。ギルバートは、セバスチャンを少しふっくらさせ人の良さそうに見える男だが、兄に劣らず、この屋敷をうまく管理してくれている。


「ギルバート、すまん。このまま王城に向かう。馬の用意を」

「は、はいっ!」


 私たちがいきなり現れたせいで、屋敷の中は慌ただしくなった。馬の用意を終えたのか、すぐにギルバートが戻ってくる。


「何か変わったことはないか」

「そうですね……王城にシャトルワース王国の者の出入りが増えた、という話が」

「……早いな」

「何か、ございましたか」

「奴ら、『聖女』召喚を行ったようだ」

「なんと!」

「聖女様は、我々が保護して、今は領都の城におられる」

「お、おおお!」


 屋敷の玄関のドアを開けると、三頭の馬が我々を待っていた。


「行ってくる」

「はっ! お気をつけて!」


 その言葉に送られ、我々は王城へと向かった。


                * * *


 まずはヴィクトル様に、と執務室へと帰還のご挨拶に向かうと、その場には第一王子のレイノール様もいらっしゃった。


「イザーク、お前、シャトルワースでお尋ね者になってるぞ」


 ニヤニヤと笑ってる姿に、冗談を言っているのかと思い、言い返そうとしたところ、背後のドアがいきなり開いて、宰相のところの補佐の一人が現れた。


「イザーク・リンドベルッ、至急、謁見の間に来いっ」


 ヴィクトル様やレイノール様の存在に目もくれない高圧的な物言いに、一瞬、苛立ちを覚える。しかし、レイノール様の咳払いに気付いた補佐が、慌てて頭を下げる様に留飲を下げる。


「レイノール様もいらっしゃるとは」

「ふんっ、一応、ヴィクトルもいるんだがな」

「は、はいっ。失礼しました」

「イザーク、私も一緒に行こう。ヴィクトルも色々話を聞きたいだろう」

「そうですね」


 同母の兄弟なだけに仲の良い二人の王子が、少し青ざめた顔の補佐を無視して、部屋を出ていった。私もその後についていく。

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