第112話

 転移陣のある尖塔は、屋敷の一番端に繋がっている。それも地下の方にあるのか、私たちは階段をゆっくりと降りていく。


「国王様に会う時……謁見? の時は、どんな格好がいいんでしょうかね……そういえば、その時って、シャトルワース王国の人もいたりするんでしょうか」


 一応、レヴィエスタからクレーム入れてるっぽいし、自分たちの無実を証明するためか、もしくは召喚したのを認めて自国に連れ帰ろうとするのか。シャトルワースの動きが見えないと、動きようもない。


「そうだな……イザークが言うには、あちらの外交官が立ち会うようなことを言っていたが」

「……私の姿など、情報共有されてるんでしょうかね。まぁ、されてたとしても、昔の姿の私しか知らないはずなので、このままだと別人って思われますけど」

「いいのではないか? ミーシャは彼らが探している『聖女』とは別の『聖女』なのだと思われれば、イザークがシャトルワースから攫ったとは言われまい」


 言われてみればそうか。別人のほうが、あちらからのちょっかいも抑えられる。そもそも、あの国が自国で召喚したことを認めてるんだろうか。


「それなら、事前に絵姿みたいなのをあちらから貰って確認しておいた方がいいかもしれませんね」

「そうだな。万が一、ミーシャを見て、シャトルワースの『聖女』と同一人物です、と言われた時の拒否もしやすいしな」


 ヘリオルド兄様と話をしているうちに、尖塔の地下にある転移陣のある部屋の前に到着していた。部屋の中にはすでにエドワルドお父様たちが待っていた。広さは十畳くらいだろうか。そんなに広くはないから、大柄な家族全員がいると狭く感じる。部屋の奥の方に、円形の転移陣があり、その中には、すでにイザーク様とオズワルドさんが立っていた。


「お待たせしました?」

「いや、そんなことはないぞ」


 そう言って両手を広げて私を抱きしめると、今度はアリスお母様、という風に、皆が順番に抱きしめてくれる。


「本当は我々も一緒に行きたいところなんだが」

「どうかしましたか?」


 困ったような笑顔を浮かべたエドワルドお父様に、アリスお母様は大きくため息をつく。


「ミーシャは気にせず、王都で国王様にご挨拶してらっしゃい。それで、さっさと帰ってらっしゃい」

「アリスお母様」

「帰ってきたら、魔術師の家庭教師をつけてあげる。伝達の魔法陣を覚えたいのでしょう?」

「本当ですか!?」


 学校とかに通わないと教えてもらえないものだと思ってた私には、天の声に聞こえる。


「私が学生時代に教えていただいた先生が、今はリンドベル領に隠居されているの。その先生にお願いしてみるわ。きっと、喜んで教えてくださるわ」

「薬師のほうも探しておく。だから、さっさと帰って来なさい。帰ってきたら、一緒に魔の森に薬草を探しにでも行こう。私たちが一緒だったら、どんな魔物だって大丈夫だしな」

「ありがとうございますっ!」

 

 エドワルドお父様まで、嬉しいことを言う。なんかテンション上がってきた!もう、さっさと用事を済ませて帰ってくる!

 転移陣を見ると、確かに大人数での移動は厳しそうな大きさだ。荷物は先にカークさんとともに送らせたみたい。私たちは円形の転移陣の中に入っていく。


「気を付けて行ってこい」

「はいっ」


 エドワルドお父様の言葉に、返事を返したと同時に、白い光で転移陣の描かれた線が浮き彫りになる。すうっと身体から何かが抜けた感じがしたと同時に、目の前が真っ白になった。

 転移って、昔の古いエレベーターみたいに、変な浮遊感があるのね、と、その時思った。

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