第111話

 翌日、朝早くから屋敷の中は慌ただしかった。

 単純に私とイザーク兄様(……うん、頑張る)たちだけが行けばいい話なのでは、と思っていたら、ヘリオルド兄様とジーナ姉様も行くことになったのだ。そのために屋敷の者たちが王都で着られるような衣装を用意したりしてるみたいだった。あちらの屋敷に行くのに、他に何を持っていくのか、私には想像がつかない。


「ジーナ姉様、まだ、ゆっくりと休んでいたほうがいいのでは?」


 王都にある屋敷に繋がる転移陣のある尖塔に向かうため、屋敷の玄関のドアの前、広いエントランスのホールを見下ろす階段の上、私たちは並んで歩いていた。

 ジーナ姉様の顔色はそれほど悪くはない。私の手を握りしめながら、笑顔を浮かべている。美しい金髪を緩やかに纏め、淡いブルーのドレスを着こなしている姿は、既婚者には全然見えない。

 隣に並ぶ私は、シンプルな紺のワンピースにずっと持ってきた肩掛けのバッグ。

 本当ならアルム様に頂いた冒険者の格好でもいいかと思ったんだけど、そのまま王城にあがるかもと言われて、ワンピースにしたのだ。メイドさんたちが期待を込めて持ってきた真っピンクドレスは断固拒否。ドレスに肩掛けバッグは似合わないでしょ? 従者に預けるように、とか言われたけれど、アイテムボックスの存在を隠す必要もあるかもしれないしね。


「いいえ。身体の調子も悪くないし、久しぶりの王都ですもの。ミーシャと一緒なら楽しいはずだわ」

「そうだよ、ミーシャ。せっかくジーナが行く気になったのだから、一緒にいてあげておくれ」


 後ろからついてきていたヘリオルド兄様にそう言われてしまったら、大人しく傍にいるしかない。けして嫌ではない。単に心配なだけ。何せ、王都。社交的な場に、私の力で治癒したとはいえ、病み上がりのジーナ姉様にストレスになるんじゃないかって、心配にもなるだろう。


「わかりました。でも、ジーナ姉様、無理はしないでくださいね。もしもの時は……私が姉様の代役しますから」

「代役?」


 不思議そうな顔をするジーナ様の目の前で、私は変化のスキルを使ってみせる。


「まぁ!」

「ジ、ジーナが二人!?」


 並ぶと完全に双子。たぶんシャッフルしたら、ヘリオルド兄様でも見分けがつかないだろうね。問題があるとすれば、マナーとか、知り合いの情報とか?

 再び自分の姿に戻り、ジーナ姉様を見上げる。


「ね?」


 ジーナ姉様は可愛らしい口をポカンと開けて、ヘリオルド兄様も固まってる。


「……まさか、他の者の姿にも変われるのか?」

「ええ、まぁ、色々制限はありますけどね」


 そうなのだ。最初に、服を着たら元の姿に戻ってしまうことに気付いてから、時々、一人でいる時に確かめていたことがある。変化で他に何ができるのか、できないのか。

 まず、会ったことのない人には変化できない。

 他のメイドの姿を想像しても、どこかあやふやな知識だと、前に逃亡する時に一度変化したあのメイドさんになってしまう。例えば、あっちの世界で見たドラマのメイド姿をしていた女優さんになろうとしても、無理なのだ。残念。

 そして、会ったことがあっても男性にはなれない。

 だから、イザーク様やニコラス様になろうとしても、出来なかった。さすがに元夫の姿になろうとは思わなかったけどね。

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