第57話

 部屋に案内され、それぞれに宛がわれた部屋へと別れた。

 なんと、この特別室、ワンフロア全部を使ってて、メチャクチャ広い。その上、入口部分に従者やメイドが使う用の小さな部屋があって、その奥にいわゆるお貴族様のお部屋があるのだ。ビックリである。こんな部屋、そんなに使う人がいるんだろうか、と思ったら、案の定、利用頻度は多くないらしい。だから今回も空いてたのね。助かったけど。

 私は無事にメイド用の部屋をゲットして(今回は最初から文句は言わせなかった)、それぞれに別れて、荷物の整理をしていると、部屋のドアをノックする音がした。慌てて部屋から顔を出すと、すでにカークさんが対応していた。


「イザーク様、お客様だそうですが」

「私にか?」


 こっちは宿についたばかりだというのに、何者だろう、と不審に思う。


「はい、どうも、こちらの砦の守備隊長とのことなんですが」


 守備隊長と聞いて、身構える私。わざわざ宿まで来るなんて。

 不安に思いながらイザーク様へ目を向けるけど、イザーク様のほうはいたって落ち着いて見える。


「……わかった。下へ向かえばいいのか?」

「その必要はございません」


 イザーク様の声に被せるように、ずいぶんと野太い声が返ってきた。


「……こちら、イザーク・リンドベル殿のご一行で間違いございませんか」


 うわぁ……個人情報駄々洩れかい。勝手にここまで案内しちゃうとか、怖すぎる。

 ドアの先に現れたのは、筋骨隆々という言葉がぴったりの、ちょっと頭が薄くなり始めてる三十代くらいの男の人が立っていた。まさに守備隊長って感じで、長めの黒いマントに黒っぽい制服を着てる。


「もしや……アラスター・ハーディング殿か」

「おお! ご無沙汰しております! 三年前のトーラス帝国での武術大会以来ですな!」

「こちらこそ!」


 入口のところでいきなり話が盛り上がってる二人に、呆然と見てる私。


「あの、お話をされるのでしたら、お茶のご用意をいたしますので」


 そう冷静に声をかけたのは、オズワルドさん。


「ああ、そうだな」

「かたじけない、衛兵よりリンドベル殿が門を通られたとの連絡があってな。ご挨拶だけでもと、思いまして……」


 ……うん。知り合いっぽいね。

 ここで私がお茶でも用意したほうがいいのかもしれないけど、と、一瞬迷ったんだけど、目があったカークさんが、顔を振って止めるように言っている。そうだね。余計なことはしないほうがいいかもしれない。私はそそくさと自分の部屋へと引っ込むことにした。

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