第195話

 教育ママは無表情で書類をチェックしたかと思ったら、そのまま私に目を向けた。


「はい。では、短期間とはいえ、我が校での有意義な学生生活を送ってください」

「……ありがとうございます」

「女子寮に案内する者が来ております。……入ってください」


 ドアの方へ声をかけると、静かにドアが開いて一人の少女がオドオドしながら顔を覗かせる。年のころは、私の見かけ年齢(十二歳くらい)と、同じくらいだろうか。前に第三王子に会いに来た時に見かけた、ここの女子の制服であろう、白い襟にグレーのマキシ丈のワンピース。ちょっとワンピースの方が大きい感じがして、まだ制服に着せられてる感じが拭えない。金髪に青い目というお人形さんみたいに可愛らしいのに、そのオドオド加減が、ちょっとだけもったいない気がする。


「レジーナさん、ちゃんとドアを開けてきちんとご挨拶なさい」

「は、はいっ。し、失礼しますっ」


 威圧的な教育ママの声に、レジーナ、と呼ばれた女の子は顔を青ざめながら、部屋に入りカーテシーをした。その姿はなかなか綺麗なものがあり、マナー教育が小さい頃からされてるんだろうなぁ、と、ちょっと感心したり。

 怯えたような感じではあったものの、彼女はチラッと私の方へと目を向けると、すぐに目を伏せて小さな声で名前を名乗った。


「レジーナ・シェンカーです。よろしくお願いします」


 私は椅子から立上ると、レジーナと名乗った彼女の前に立ち、同じようにちょこんとカーテシーをして、にっこりと微笑んだ。


「アウラ・ハイデルベルクと申します。」


 私の挨拶に、少しホッとしたような顔になったレジーナ嬢。ずいぶんと緊張してたのだろうか、肩がストンと落ちて安心した風に見える。

 そして、当然、こっそり鑑定する。名乗った通りに彼女の名前は『レジーナ・シェンカー』侯爵令嬢。六人いる第三王子の婚約者候補のうちの一人だ。

 私が把握している婚約者候補の中で一番年下で、一番爵位が高い。公爵たちの中で、第三王子と近しい年齢のご令嬢は、カリス公爵のエミリア嬢しかおらず、今回、彼女は候補の中には含まれていない。


「レジーナさん、ハイデルベルクさんを、女子寮までご案内してさしあげて」

「はい、わかりました……ハイデルベルクさん、では、ご一緒に……」

「ええ。では、先生方、失礼いたします」


 学園内では爵位は関係ない、と聞いてはいたが、教師がここまで威圧的に言うのはどうなんだろう。サンタのおっさんは何も言わずに、ずっとニコニコしてるだけだし。ああ、サンタのおっさんは、一応、学園長でした。最初に挨拶したっきり、教育ママがずっと仕切ってたおかげで、それっきり会話らしい会話がなかったことを思い出したけど、私はすでにレジーナさんと共に部屋を出るところ。

 内心、教育ママにあっかんべー、をしながら、私はレジーナ嬢の後をついて行くことにした。

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