第18章 おばちゃん、学園に潜入する

第194話

 目の前に座る髭もじゃのおじいさんは、ニコニコとしながら私を見つめている。恰幅のいい身体に、ほっぺた真っ赤な感じは、赤い服を着せたらサンタか、白いスーツなら某ファストフードのおじいさんを連想させる。

 ……ああ、フライドチキン、食べたくなってきた。


「それでは、一応、こちらの書類にご署名を」


 そう声をかけてきたのは、スイスの某山の少女がいたアニメに出てきそうな教育ママ風の女性。年齢的には私の実年齢よりは少し若いだろうか。

 質の良さそうな紙で出来た書類を差し出され、私はじっくり中身を見る。特に問題はなさそうか。


「ハイデルベルクさん?」

「あ、は、はい」


 私、今、変装して王都の学園に来ております。変化のリストの力ではなく、水の精霊王が魔法で髪と瞳の色を変えてくれましたよ。ついでに、ちょっと美人にしてってお願いして。精霊の力って凄いわぁ。

 黒髪のストレートに黒い目というのは、この世界では、ちょっと目立つらしく、今の私は、栗色の緩いウェーブのかかった長い髪に、緑の瞳。絶対、私の元の姿など連想などできない姿になっている。これ、水の精霊王が魔法を解くまで現状維持だとか。変化のリストって、あくまで見た目だけが変わって見えるだけで、前みたいにローブを上から羽織ったりしたら簡単に解けちゃって危ういから、どうしようかと思ってはいたのよ。


 最初は『聖女』のミーシャで学園に乗り込もうかとも思ったけど、そんなんじゃ、候補者全員猫を被りそうだし、そもそも偽聖女なんて近寄ってもこなそうだと思った。

 どうしたもんか、と悩んでたら、神の声ならぬ、精霊の声。使えない変化のリスト(私じゃないよ? 精霊王たちが言ったんだよ?)よりも、水の精霊王が手伝ってくれるというから、お願いしてしまったのだ。ああ、ありがたや~。


「こちらでよろしいですか」


 この世界の文字も、今ではなんとか書けるようにはなってはいるのだ。『アウラ・ハイデルベルク』。それが、今の私の名前だ。

 設定としては、帝国を挟んだ先にあるお茶で有名なコークシス王国の伯爵家の娘で、短期留学の体で、この学園を見学させていただくということになっている。

 限られた期間はたったの二週間。二週間で見極めろとか、無理だろう、と思いつつ、私自身の方が子供相手に耐えられなそう、という思いも無きにしも非ず。


 こんなの国で雇ってる影の軍団、みたいなので調べたりしないのかしら、と思ったけれど、その貴族の裏事情的なことはある程度は調べはしても、令嬢自身までは詳しくは調べないのだとか。まぁ、確かに、十代のご令嬢たち程度のこと、その見極めは王子本人がしろ、ということなんだろう。

 それでも、王子が大恥をかくようなことがないように、ということで私の出番ということなのか。ちょっと、過保護過ぎやしないかね?

 それでも、断らない私も私なんだけど。

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