第193話

 ひい、ふう、みぃ……と数えてみると、合計で六人(偽聖女含む)。


「適当でもいい?」


 思わず、どれにしようかな、とか言いながら令嬢達の名前の上を指さしていく。


「いや、まぁ、それはちょっと」

「かーみーさーまーのー言うー通りー」

「え、神様!?」


 パメラ姉様とイザーク兄様、そこに反応するかな。


「……んーと、ルーシェ・プレスコット? ん? 子爵令嬢って書いてあるけど、子爵って、王子と結婚できるの?」

「え? 子爵? いや、普通は伯爵以上の令嬢でないと駄目なはずなんだが」


 そう言って、私の差し出した手紙を手に取り、チェックするイザーク兄様。

 この世界の婚約者候補なんだから、いつでも万全の状態で臨むもんじゃないのかなぁ、と思うわけで。


「……ねぇ、もしかして、その子、リシャール様の想い人だったりして」

「えっ?」

「だから、国王様にお願いして無理矢理リストの中に入れてもらったとか。ほら、選ぶのは聖女であるミーシャだけど、万が一にも、とか思ったんじゃない?」


 楽しそうに言うパメラ姉様だけど、うむ、あながち、その考えも外れて無さそうな気がしてくる。でも、そんなに他力本願でいいのか。もっと、こう、自力で頑張るとか、ないのかなぁ。


「ミーシャ、本当に、この子爵令嬢でいいのか?」

「え、こんなんでいいの?」


 こっちは冗談半分でやったみただけなのに、イザーク兄様が本気にされてしまった。どんだけ真面目なの。


「い、いや、『神様の言う通り』と言ってたから、何かお言葉があったのかと」

「……イザーク兄様、アルム様は、そんな些末なことに言葉なんかくれません。冗談です。冗談」


 一応、あちらの世界で子供の頃に複数のモノで迷った時に使う方法だということを説明したら、なるほどねぇ、と感心したのはパメラ姉様の方だった。


「それよりも、この身上書だけじゃ、本人の性格や物事の考え方とかまではわからないじゃないですか。もし、他の令嬢たちも偽聖女とまではいかないまでも、あんまり性格がよくないとか、浪費癖があるとか、後からわかって私のせいとかにされたら嫌なんですけど」


 無責任に選んでもいいんだったら、後から文句は受け付けないぞ。でも、絶対、あーだこーだ言ってきそうじゃない? あの第三王子。


「あー、うん、そうだなぁ……」


 イザーク兄様を困らせたいわけではないんだが、後々、私だけではなくリンドベル家にまで影響を及ぼしかねないと、思うわけで。責任押し付けられたら、堪ったもんじゃない。


「じゃぁ、王都に行ってお茶会でも開く?」

「え、そんなの、開いてどうするんです」

「直接会ってみればいいんじゃない」

「いやいや、『聖女』の私に会ったって、絶対猫を被るに決まってるじゃないですか」

「ん~、でも、それ以上のことは我々じゃわからないわよねぇ……じゃぁ、学園に入ってみる?」


 パメラ姉様の言葉に、えぇぇ……今更ですか? と思って顔を顰める私。


「一応、十八の子を除いて、全員、学園に在学中みたいだし、学園での様子とか見てみればいいじゃない」

「でも、そんなの第三王子だってご存じじゃ」

「王子の前では、特大の猫をかぶってるかもよ? その子爵令嬢だって」


 むむむ、確かに。それもありそうで、なんとも言えなくなる。


「ミーシャ、王都に来るのか?」

「う、うーん、ちょっと検討させてください」


 嬉し気なイザーク兄様に、ちょっと満更ではない気分になる私。

 真面目に、どうしたものかしら、と考えながら、兄様から手紙を受け取ると、もう一度それに目を落とすのであった。

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