第192話

 手元の良い紙を使った手紙を読んで、大きく溜息をつく。


「なんだって?」


 最初に聞いてきたのはイザーク兄様。自分で持ってきた手前、気になるのだろう。不安そうな顔をして目の前で立って待ち受けている。私も、ついつい兄様をジロリと見たくなる内容なだけに、口をへの字に曲げてしまう。


「案の定、婚約者候補を私に選べ、とのお達しですよ」

「やっぱり?」


 パメラ姉様も、苦い顔だ。そりゃそうだろう。第三王子の手紙程度だったら、子供の戯言程度ということで笑い話で終わらせることも出来なくもない。

 しかし、国王様のサイン付きの正式文書で届けられてしまったら、断るわけにもいかない。


 手紙の中には候補となる令嬢たちの名前とともに、簡単な身上書がついている。当然のごとく、偽聖女も含まれている。だいたい、十二歳から十八歳までの令嬢たち。容姿や、何が出来るとか、趣味はなんだとか、そんなものは第三王子の好みの問題。派閥だのなんだも、私がそれを知ってどうなるというんだ。そんな調整みたいのは、お前らでやれっ! と、叫びたくなるが、ぐっと我慢。


「これって、私が偽聖女……じゃなくてドッズ侯爵令嬢、って言ったら、彼女になるのかなぁ」


 意地悪な顔でそう言うと、パメラ姉様はクスクス笑い、イザーク兄様は呆気にとられてる。


「まぁ、参考にはするんじゃない? 実際、内々での依頼みたいだし、別に公にされているわけではないのよね? 兄上?」

「そ、そうだな。しかし、ミーシャ、ドッズ侯爵令嬢は、俺でもどうかと思うぞ?」


 イザーク兄様にしては珍しく否定的な反応。どちらかというと普段からフェミニストな感じなだけに、彼女と何かあったんだろうか? ジーッと見ていると、困ったような顔でポツポツと話始めた。要約してみると。


 ――ドッズ侯爵令嬢は節操無しに、高位貴族の令息たちを侍らせている。


 だそうだ。その中にイザーク兄様が含まれていないことは、言葉の端々から感じ取れる。含まれてたら、ちょっと……いや、だいぶ引くわ。

 それでも、結構なアプローチがあったのだろう。うんざりしたような顔をしている。


「でも、その令息たちだって自分の意思でついて歩いてるのでしょう?」

「多少は親の思惑もあるかもしれないがね」


 偽聖女であろうとも、少なくとも帝国からのお客さんだ。ある意味、接待要員ってことなのかもしれないけどね。

 そんなことは、この国の貴族や王家に任せるとして、私は他の令嬢の方が気にはなるんだが、そもそも、どんな方々なのか、さっぱりわかんない。

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