第196話

 学園に潜入して三日が経った。『潜入』とか言うとスパイみたいで、ちょっとワクワクするけれど、実際はいたって普通の学生生活、と言えるだろう。

 授業自体、すでにリンドベル領で学んだことばかりだし、復習みたいな感じなんだろうけれど、私にしてみると退屈ではある。


 案内された女子寮は、学期の途中から来たこともあって、たまたま空いていた個室(普通は二人部屋らしい)に入ることになった。おかげで、リンドベル領の外れにある我が家に転移できたりする。女子寮はしっかり結界はってますから、誰も入れませんしね。

 食事はさすがに、寮内に食堂があるので、そちらでとってますけどね。お貴族様が多いせいか、食事のレベルもそこそこ。悪くはない。

 そう、この学園は、庶民も通えるには通えるけれど、多くは貴族の子女。庶民の場合、ある程度の魔力がある者で、それなりに金銭的に余裕がないと通えないそうだ。ああ、一応、有能な学生には特待生みたいな制度もあるらしい。しかし、残念ながら、私の周辺には、庶民の方々は近寄っては来てくれない。

 なぜならば。


「ア、アウラさん、席をご一緒してもよろしくて?」

「……はい、どうぞ」


 食堂のそれも端っこの方にいる私を、必ず見つけては声をかけてくるレジーナ嬢。初日に私を女子寮まで案内してくれた彼女が、私のそばから離れないせいかと思われる。

 一応、学園内での身分差はない、というのが表向きの話で、実際はしっかり社交界のミニチュア版といったところなのは、社交知らずの私でもわかった。

 レジーナ嬢は侯爵令嬢ということもあるけれど、元々、社交が得意でないのか、取り巻きという名のお友達もあまりいないご様子。まぁ、普通にいい子だから、私は気にしないんだけど。あまりおしゃべりでもない彼女のおかげで、食事の間に色々と考え事をしたり、周囲を見る余裕もあったりする。


 婚約者候補六人のうち、この学園に在学しているのは五人。最年長のブリジット・コンロイ伯爵令嬢(十八歳)は、すでに学園を卒業されていて、彼女だけは確認はできなかったりする。

 そして、偽聖女、アイリス・ドッズ侯爵令嬢(十五歳)は、王都内にある帝国の大使館側のお屋敷から通っているらしい。婚約者になるつもりがあるんだったら、女子寮に入って人間関係作っておいた方がいいんじゃないの? って、私は思うんですけどね。私個人としては、もっとも会いたくもないんだけど。

 そして残る四人(レジーナ嬢を含む)は、女子寮にお住まいになっている。

 エリナ・ポワーズ伯爵令嬢(十六歳)とキャサリン・コーネリウス伯爵令嬢(十五歳)、そして、ルーシェ・プレスコット子爵令嬢(十五歳)。この三人は学年は一緒だけれど、伯爵令嬢二人は偽聖女と同じクラス、ルーシェ・プレスコット子爵令嬢は第三王子と同じクラスだとか(ちなみに、エミリア・カリス公爵令嬢は、また別のクラスらしい)。


「ふ~む」


 食後の紅茶を飲みながら、周囲を見ている私を、不信がりもせずにニコニコ見ているレジーナ嬢。なんか、彼女が一番、落ち着いてて私は好きだわぁ、などと呑気に見ていると、何やら、食堂の中央付近でもめ事発生の模様。




 ……うわぁ、もしかして、修羅場?!

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