第268話
残り物には福がある、とはよく言ったものだ。
使用人たちの部屋での食事のおかげで、休憩に来る人や、通りすがりに立ち寄る人に、この群島のことについて色々と話を聞かせてもらった。特に、私の見かけが見かけのせいだろう。町や屋敷の下世話な話から、特産品や料理、魔物の話や言い伝えまで。
基本、南の島の人間というのは、どこかのんびりと、大らかで、話好きらしい。貴族たちの前ではちゃんとしているが、裏に回れば、気のいい人が多いようだ。
その中で、面白い話が聞けた。
群島、と言われるだけあって、たくさんの島々からなっているのは当然だが、無人島と言われる場所も多数存在するとか。その中でも、群島の一番南の端の島は火山島になっているようで、今も噴煙を上げているそうだ。
火山と言われれば、温泉をすぐに連想する私。こちらに来てから、温泉の話など聞いたことがなかった。もしかしたら、その火山島、もしくは周辺の島になら、温泉が湧いているんじゃないか、という淡い期待が浮かぶ。
そして、火山島の他にも、魔物ならぬ人魚のような存在もいるのだとか。人魚といえば、某有名アニメの人魚姫を連想するけれど、どうも違うモノらしい。話を聞くと、どちらかといえば半魚人のようだ。ちょっと夢を壊された気分になる。
しかし、一応コミュニケーションが成り立つらしく、交易みたいなものがあるそうな。この世界、話だけでは獣人がいるらしいから、魚人もいてもおかしくはないのか。
それでも、南国の島のイメージ自体は覆されなかった。
「無人島暮らし、いいなぁ」
フォークに真っ赤に熟したオレンジのようなモノを刺しながら、ポツリと呟く。
長期でそこに居続けるのは微妙だけれど、白い砂浜に大きなパラソル、サングラスをかけた美女(私ではない)というイメージが浮かび、別荘的にいるのはゴージャスな感じで、妄想が膨らむ。
しかし、無人島だけに、そんな別荘なんてあるわけもなし。実際、貴族の別荘のある島は存在するらしいが、補給の観点から、大きな島に集中しているらしく、当然、無人島ではない。
それに南国ならではの難点もある。台風のような暴風雨の存在だ。特に、今の季節は起こりやすいらしく、今回の天候での寄港は運がいいらしい。
色々と考えつつ、食事を終える頃、双子たちが迎えに来た。
その途端、同じテーブルについて食事をしていた使用人や、サボりに来てた者たちの動きが止まる。そりゃそうだ。こんな美男美女が、いきなり使用人たちの部屋になんて来るんだもの。
「あら、ミーシャ、似合ってるわね」
「カッコいいじゃないか」
自分でも、そこそこ似合ってると思っていただけに、二人の賞賛に、ニヤリと笑ってみせる。
「もう、終り?」
「ああ、一通り挨拶は済んだ。宿も用意してもらったから、行こうか」
「せっかくだし、観光もしたいしね」
双子の提案に頷くと、私は共にいた使用人たちに挨拶をして部屋を後にした。
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