第269話

 本来なら、海賊討伐の精算の受け取りや内容確認のために、少し時間がかかりそうだったのが、双子の美貌と笑顔のおかげなのか、猛スピードで処理してくれた模様。ギルド職員の皆様、お疲れ様。

 それでも結局、群島では二日ほど留まることになった。

 その間も天候に恵まれ、観光や買い物に勤しんだのは言うまでもない。中でも特筆することとしては、泊まった宿だろうか。

 この世界の高級宿の共通として、階が上に行くほど立派な部屋だったりしたのだが、この南国の島の高級宿は、平屋で海に面している部屋ほど、高級だった。いくつもの島に囲まれているせいもあってか、海は穏やかだし、海に落ちていく夕陽が見える部屋なおかげで、かなり満足のいく宿で、わざわざリンドベル領に戻る気にもならないくらい。昔、新婚旅行の時に奮発した高級ホテル(それが人生最高金額)が霞むくらいに贅沢だった。


 そして中でも印象的だったのは、日が落ち切った暗い海に浮かぶ、いくつもの淡い青い光。その幻想的な風景は双子も初めて見たようで、二人もそれが何なのかわからなかったのだが、ミニチュアサイズの水の精霊王様が教えてくれた。


『あれは、クラゲの一種です。きっと私の存在に気付いて、様子を見に来たのでしょう』

「……幽霊じゃないのよね?」

『魚人たちは、死んだ魚人の瞳、と呼んでいるようですけどね』


 意外に小心者な発言のパメラ姉様。ダンジョンにはアンデッドと言われる魔物? もいると聞いているけど、そういうのは問題なくやっつけるらしいのに、幽霊駄目なのか、と思ったら、ちょっとだけ可愛いとか思ってしまった。

 そして水の精霊王様の言葉に、なんとなく納得。あれらに明確な目があるわけではなさそうだけど、視線を向けられているように感じるのだ。


「身体の中に、光る物質を作り出す生き物は、あちらでもいましたよ」

「そうなの?」

「ええ、似たような青い光を放っているのを見たことがあります」


 テレビで見た、ホタルイカの漁のシーンが頭に浮かんだと、同時に、ホタルイカの酢味噌あえを思い出して、口の中に涎が集まる。こっちにはないんだよなぁ、味噌とか醤油の類が。


『あら……』


 どうしようもない妄想と共に青い光に魅入られていた私に、水の精霊王様の少し驚いたような声が聞こえた。


「どうかした?」

『フフフ、本物の魚人が』

「えっ!?」


 まさかの言葉に、慌てて周囲を見渡すけれど、淡い青い光の方が目について、それらしき姿は見当たらない。双子も目を凝らしているけれど、見つけられないようだ。


『少し離れた岩場に隠れて見ているようです……まだ、子供かしら……用心深いのはいいことです』

「メイドさんたちからは、彼らは、あまり姿を見せないって聞いたけど」

『ええ……クラゲたちにつられて来てしまったのかしら』


 水の精霊王様はフヨフヨと私の周りを飛びながらも、魚人の方へは近づかない。

 しばらく様子を見ていたけれど、いつの間にか、クラゲも魚人もいなくなってしまった。結局、魚人の姿は目にすることが出来なかったのは残念だけれど、ちょっとだけ特別な空気感を味わえたので、満足したのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る