好奇心は猫をも殺す(2)

 エイスは、町の外まで二人の後を追いかけていたが、結局、途中で見失ってしまった。


「なんなんだ、あいつ……猫獣人の俺よりも足早いとか、おかしくね?」


 ぶつぶつ文句を言いながら、宿に戻ってみると、御者で白狼族のロイドが無表情なまま待ち構えていた。エイスの顔を見ると、ついてくるようにとでも言うように、顎でくいっと階上を促すと、さっさと先に登っていく。


「チッ」


 舌打ちをしたエイスは、ムッとしながらついていく。

 雇い主のヤコフの部屋のドアの前に立つと、ロイドがノックする前に、「入れ」と不機嫌そうな声が聞こえた。


「どこへ行っていた」


 声の主は、ソファに座ったヤコフだった。

 普段はどちらかといえばのほほんとした感じのヤコフが、凄い形相で待ち構えていることに、エイスは一瞬、固まる。その彼の後ろにはトマスが剣呑な眼差しで、エイスを睨みつけている。

 部屋の中に目を向けると、傷を負ったゲインが椅子に腰かけている。それ以外のパーティメンバーの二人が、不安そうな顔で立っていた。


「……ちょいと買い物に」

「ほぉ……町の外まで、何を買いに行ったというんだ?」


 ともに部屋に入ってきたロイドが冷ややかに問いかける。


「なんのことだか」


 エイスは内心、冷や汗をかきながらも、表面上は呑気な顔をしながら他のメンバーのそばに行く。


「エイス……ロイドさんに誤魔化しは効かないぞ」


 困惑気味に注意をしたのは剣士のマックス。エイスは眉間に皺を寄せながら目を向ける。


「お前には言ってなかったが、ロイドさんは俺の遠縁にあたる、元A級の冒険者だ」

「は?」

「……お前程度の後をつけるのは、簡単なんだよ」


 ロイドが馬鹿にしたように言うと、エイスは顔を真っ赤にして口をグッとくいしばった。

 イザークのことしか頭になかったエイスは、まさか自分がつけられているなんて考えもしなかった。そもそも、現役で斥候役でもある自分が、元冒険者に後をつけられていたなんて、恥でしかない。


「はぁ……なんだって、ミーシャ様たちにちょっかいをかけたんですか」


 ヤコフは苦々しく言うと、視線を椅子に腰かけていたゲインの方へと向ける。すでに傷はポーションのおかげで治っているものの、出血のせいもあってか顔色はよくない。


「……あの者は、原石だ」

「は?」

「魔術の才があるのは、マックスもシリウスも、アレを見たのだからわかるだろ?」


 目をギラギラとしながら、自分の開いた両手を見つめるゲイン


「もっともっと、強くなれるはずなんだ、あんなすごい力があるなら……」

「止めてください!」


 ヤコフが甲高い声で叫ぶ。


「彼女たちに関わるのは止めてください」

「しかしっ」

「……これ以上、精霊の怒りを買いたいのですか」


 両手を握りしめながら、怒りで真っ赤な顔になったヤコフが、ゲインを睨みつけた。

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