閑話
好奇心は猫をも殺す(1)
猫野郎ことエイスは、恋愛対象は男だ。
パーティ仲間たちは、彼の嗜好については知っていたが、自分たちにそういうのを向けるわけではないし、能力のある彼を拒む理由はなかった。パーティ自体は、上手くいっていたのだ。
当初、今回の依頼は、エイスはいつも通りのノドルドン商会の護衛だけだと思っていた。しかし、蓋を開けてみれば、かなりの美男子と子供の同行者、イザークとミーシャがいた。
見た目だけなら、エイスの好みど真ん中だったイザーク。最初の一週間は、お客だと思って、多少の遠慮があった。しかし、イザーク自身が慣れてくると他の護衛たちとも気軽に話もするし、自分たち同様に護衛もする。
そんな姿を見ているうちに、エイスの心は本気モードに変わっていき、ついには、この同行期間の間に、イザークとそういう関係になりたい、と思うようになっていた。
初めのうち、見かけ子供のミーシャがいることを気にかけるくらいには、冷静なエイスだったが、モーションをかけてもイザークがまったく自分に興味を示さないことに、徐々に苛立ちを募らせていく。そもそも、イザークの関心はミーシャにしか向いていないのだから、当然といえば当然なのだが。
そんな中、日々のイザークのミーシャへの溺愛ぶりが、エイスを煽ることになる。
エイスはさりげなく嫌味を言ったり、ちょっとした意地悪をしたりしていたのだが、肝心のミーシャの方は、見事にスルーしていた(というか、気付いてもいなかった)。
エイスにしてみれば、今までの男たちが簡単に堕ちてきただけに、あまりにも自分への無関心なイザ―クに対して、より一層の執着を向けることとなる。
そして、ミーシャの存在が邪魔で仕方なくなっていた。
一方の魔術師ゲインは、ミーシャに対して、同行しているうちに並々ならぬ関心を寄せるようになっていた。
なにせ、ミーシャは気が付けば無詠唱で火や水を出して、食事の手伝いをしているのだ。普通、あの年頃(見た目は相変わらず、この世界の十歳程度にしか見えない)で、生活魔法とはいえ、安定して魔力を使うのも難しいのだ。
――絶対に、もっと高度な魔法も使えるに違いない。
――俺が、もっと凄い魔術師に育てることができるはずだ。
幼児趣味ではないものの、違う意味で面倒な方向で興味を持たれてしまっていることに気付かないミーシャ。
ゲインは魔術について、ミーシャと話をするタイミングを狙っていた。しかし、いつもイザークによって守られていることに気付き、結局、手が出せないでいた。
それがたまたま、あの日に限って、ミーシャが少し離れたところでイザークの訓練風景を見ていたのだ。
そのタイミングを逃すゲインではなかった。
「……魔法は使えるのであろう?」
そう声をかけていた。
結果は、見事に玉砕。
自身の『ウォーターアロー』を防ぐまでは予想の範囲ではあった。見た目はまったく似ていない兄の溺愛ぶりからも、何某かの防御の魔道具くらい持たせられているだろうと思っていたのだ。
しかし、実際には、ゲインがかけた『ウォーターアロー』よりも高度な『アイスアロー』で反撃をくらってしまった。
「やっぱり……やっぱり、あの者はっ」
――もっとすごい魔術師になれるはずだ。
痛みをこらえながらも、ゲインは強烈な渇望の眼差しで、去っていくミーシャの背中を見つめていた。
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