第367話
エドワルドお父様が寝ている間に、アリス母様から、ざっと簡単に事情を聞いた。
この屋敷の持ち主であるロンダリウス侯爵は、二人にとって学生時代からの友人なのだとか。その侯爵から、緊急で指名依頼があったらしい。それが、令嬢の病気を治す薬を創るための素材集めの依頼だった。
いくつかの素材については、手持ちの物があったとかで、残り二、三種類の薬草や鉱石を集めればいいことがわかり、すぐに情報を集めて目的の場所に向かったのだそうだ。Aランクの二人だから、採取自体はそれほど時間はかからなかったのは、さすがだ。
そして、依頼完了の報告をするために、侯爵家にやってきたのだが、肝心の侯爵は登城していて、戻ってきていないと執事に言われたらしい。それならば、日を改めようかと宿に戻ろうとした時、前回来た時には顔を合わせなかった、侯爵夫人が挨拶に現れたそうだ。
「正直、随分と品のない女性で、侯爵も趣味が変わったわね、とは思ったのよ。」
……アリス母様、辛口だな。
ちらりと外に転がってる偽物の侯爵夫人へと目を向ける。
なんでも、令嬢の実母はすでに亡くなられているとかで、侯爵が再婚したとは、再会した時にも聞いてなかったし、紹介もされなかったとか。やはり、自称でしかなかったわけだ。
しかしその時点では、仮にも侯爵夫人。友人の妻、ということもあり、お茶に呼ばれてしまえば断れるわけもない。しばらく他愛無いことを話した後に、令嬢の見舞いでもとなって、部屋へと案内されたそうだ。
部屋に入り、令嬢のベッド脇に行く直前、急に右腕に激痛が走ったのを最後に、意識がなくなったらしい。
「お父様の方は問題なかったの?」
「あったさ」
すでに意識を取り戻したお父様。は、早いっ。なぜ?
顔色は相変わらず血の気がない感じで、床に座ったままだ。
「エドワルドお父様!」
「酷い目にあった」
忌々しそうに言って、エドワルドお父様は手近なところに落ちている手紙を拾っては、中を確認していた。
「アリスがいきなり倒れたかと思ったら、今度は俺の方も身体が痺れてきたんだ。まさか、友人の家でそんな目に合うとは思わなかったよ」
そう言いながら、どんどん不機嫌になっていく。
「なんであんな傷だらけに」
「執事の他に、メイドや使用人たちが襲ってきたんだ。麻痺のほうが酷くてな。身体が上手く動かせなくて防戦一方になってしまった」
悔しそうなお父様。敵はほとんど倒したはず、とのことだったけれど、私たちが来た時には、そのように暴れた跡は残っていなかった。敵の死体や、血などの汚れがないのは、あの中年執事が始末したのだろうか。
なんとか撃退した後、伝達の魔法陣で連絡を入れて、万が一の防御のために結界を張ったら、意識がなくなってしまったそうだ。
「ジョーンズのヤツ、見つけたら、タダじゃおかない」
ジョーンズというのが侯爵の名前なんだろう。エドワルドお父様の周りに、怒りのオーラが見える。本当に、タダでは済まなそうだ。
「イザークたちが来てくれて助かった」
うん、すぐに動いてよかったよ。
そんなホッとした空気になったところに、屋敷の入口の方が騒がしくなった。
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