第206話

 私たちは今、寮の中の食堂の片隅で、夕食の後のティータイムを楽しんでいる。何せ、明日の授業が終わったら、すぐに退寮するのだ。ゆっくりと彼女と話をするのも、これが最後。一応、彼女の気持ちを聞いてみたいと思ったのだ。


「レジーナ様」

「なんですの? アウラ様」

「レジーナ様は、お好きな方はいらっしゃるんですか?」

「な、何をいきなりおっしゃるの?」


 頬を染めるあたり、初心うぶだなぁ、と、おばちゃんは和んでしまう。


「いえ、私の学園生活も明日で最後でしょう? 一度、そういうお話も聞いてみたかったものですから」

「ア、アウラ様こそ、どうなんですの?」


 確かに、自分のことを聞かれるなら、相手も話せ、ということになりますね。そこで頭に浮かんだのは……夫ではなく、イザーク兄様の顔。それに気づいて、自分でもビックリ。顔色にまでは出なかったとは思うけど、内心、焦る。


「コホンッ、そ、そうですわね……国にいる義理の兄かしら」

「まぁ……それは……」

「フフフ、お気になさらないで」


 ちょっと寂し気に答えた私を、レジーナ嬢が、どう勘違いしたかは、敢えて聞くまい。頑張れ、女優ミーシャ。


「わ、私は……憧れている方ならおります」

「まぁ! それは、どういったお方なのですか?」


 身を乗り出して聞いてしまう。レジーナ様は顔が真っ赤。


「いえ、あの、その方には、お好きな方がいらっしゃるのです……でも、私が心の中で想ってるのは、構いませんでしょう?」

「ええ、そうですわね……で、どなたなんです?」

「アウラ様……」

「最後なんですから」

「そんな、これからも、お友達でいてほしいですわ」


 粘って粘って、ようやく聞きだした。話を聞く限り、やっぱり、彼女も第三王子を意識していたようだ。どうも、親御さんから、婚約者候補の話をもらった時点から気にし始めたそうで、でも、現実には子爵令嬢がそばにいる姿を見ていただけに、諦めている状態だったそうな。


「そうなんですのね……その方とはお話をされたことは?」

「いえ、まだ、正式にご挨拶をしたこともございませんし、私が社交界デビューもまだですから」


 学年も違うし、デビュー前だから夜会などでお会いすることもない、たぶん、婚約者候補たちの中では、一番接点がないレジーナ嬢。他の令嬢たちよりも不利すぎて、可哀相だわ。


「レジーナ様のお気持ち、いつかきっと届きますわ」

「まぁ。アウラ様こそ、お気持ちが届くとよいですわね」


 ウフフ、とお互いに笑いつつ、私の方はどうでもいいのよ~、レジーナ様こそ、幸せにおなり~、と心の中で呟くのであった。





 そして、翌日には無事に退寮し、懐かしの我が家へと転移で戻ったのは言うまでもない。ただ、王家に書く報告書だけが、面倒で面倒で仕方がなかった。

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