第166話

 う、うわぁ……。

 まるで、飼い主を見つけて喜ぶ子犬のよう……いや、体格からして大型犬……そうね、ゴールデンレトリーバーの子供……すでに十分デカイヤツ……みたいだ。その様子に顔が引きつりそうになる。


「ミーシャ!」


 満面の笑みで階段を駆け上がってくる。そのスピードたるや、びっくり。瞬きしてる間に、目の前にやってきた。


「お、おかえりなさい」


 私はなんとか笑みを浮かべて声をかける。イザーク兄様、目の前にくるとしゃがみこんで私の顔を覗き込みながら、私の両肩をガシッとつかむ。


「ああ、ただいま。本当に来たんだな」


 まぁ、ここまで嬉しそうな顔されたら、私だって満更ではない気分になる。イザーク兄様、イケメンだしね。役得、役得。


「うん、ついさっき……」

「まぁ! そちらが有名な『聖女様』ですの!?」


 私がイザーク兄様に返事をしようとしてるところに被せるように甲高い声が、階下からあがる。わかっていたことだけど、兄様に放置されたのに、まだ、あの女性はいるよねぇ。

 というか、私のこと、知ってるの? 確かに前に夜会に出ているし、あの場にいた貴族であれば、リンドベル家にいる少女を『聖女』と連想できるのかもしれないけど。


「兄様、あちらは」


 こそっと声をかけると、兄様も困った顔になる。


「知らんのだよ。しかし、あちらは私を知っているようなんだが……」

「イザーク様、ぜひ、『聖女様』をご紹介いただけませんか」


 ほんと、なんなの、この人。私と兄様が話しているところにも、声を被せてくる。私がジロリと階下の女性へと目を向けると、相手の方は、自信満々に笑みを浮かべて見上げて来る。

 こうして見てみると、金髪は綺麗にくるくるとカールしているけど、ピンクの可愛らしい感じのドレスを着るには、若干年を取っているように見える。私が、穿ってみてるせいか、美人か、と言われれば美人の部類に入るのかもしれないけれど、品がないように見えてしまう。


「貴女、名前は」


 私は上から見下ろしながら問いかける。ちょっと意識して、偉そうに言ってみた。

 その言い方が気にくわなかったのか、女性は口元をピクリと歪ませる。それでも作り笑いを浮かべるあたり、努力は評価してあげよう。


「私、ヴェルヌス伯爵が娘、リリスと申します」


 ツンッと鼻を上げて言い切る姿は、自慢げだけど、そのなんとか伯爵がどんだけ偉いのか、よくわかりません。


「……ヴェルヌス伯爵は、最近、陞爵された方ですね」


 いつの間にか側に立ってたギルバートさんが、ぼそりと説明してくれる(さっきまで下にいたよね? )。王都の貴族事情はちゃんと把握してるのね。


「しかし、あちらにはお嬢様はいらっしゃらなかったはず。ご養女にでも入られたのでしょうか」


  その言葉に、私は鑑定を使ってみるが、彼女の言葉には偽りはなかった。確かに、リリス・ヴェルヌスと出てくる。

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