第167話

 自信満々の笑顔……ニコニコじゃなく、ニヤニヤ……が下品に見えるリリス嬢。うむ、育ちが見えるようです。


「確かに、ヴェルヌス伯爵の娘さんみたいね。……兄様、どこで何したんですか」

「え、いや、俺は何も」

「でも、彼女と一緒になるとかなんとか」

「ほ、本当に覚えがないんだ」


 必死な兄様に、ちょっと笑っちゃう。そんなに頑張って、私に言い訳しなくてもいいのに。


「イザーク兄様は、このように申してますが、リリス様、どこでお会いしてるのかしら」

「それは、先日の夜会の時ですわ」

「夜会? どちらの夜会ですの?」

「ど、どちらと言われても、夜会は、夜会ですっ」


 えぇ~。自分がどこの家の夜会に行ったかも把握していないの? 貴族ではなくて高位の娼婦だったとしても、それはない話じゃなかろうか。最近、陞爵したとはいえ、貴族であるのなら、それなりの教育を受けているものなのでは? と、私でも思うんだけどねぇ?


「兄様、最近行かれた夜会って、何があります?」

「私はヴィクトル様の護衛でしか行ってないし、個人的にはどこにも行っていませんが」

「……ということだそうですけど」


 チロリと目を向けると、顔を真っ赤にしているリリス嬢。


「わ、私が嘘を言ってるとでもおっしゃるのっ?」

「いいえ、嘘は言ってないかもしれませんが……別の方と間違われてるのでは?」

「そ、そんなことございませんっ!」

「その根拠は?」


 意地悪かもしれないけど、兄様も困ってるっぽいのを見たら、追求の手は緩められないよね。


「し、知り合いが教えて下さったのよっ。あの日、お庭でお会いしてた方のお名前がイザーク・リンドベル様だと! その時、お話したのです! 一緒になろうと!」


 彼女の相手をうちの兄様と言った知り合いが気になるところだけど、それよりも、名前も知らない初めて会ったっぽい相手の「一緒になろう」を、安易に信じちゃうリリス嬢に、ドン引き。純情? いや、純情だったら、あんな下品な顔で笑わないよね? ただのお馬鹿さん、てこと?


「ずいぶんと、おめでたい頭をされてるのですねぇ」

「ミ、ミーシャ!?」

「なんですってぇ!」


 兄様、驚くことでもないでしょうに。

 うん、もう、こういうのって不審者扱いでいいよね? しかし、一応は貴族の娘扱いをしなきゃいけないか。


「ギルバートさん、ヴェルヌス伯爵に連絡を。お嬢様の体調がよろしくないようなので、お引き取り下さいと」

「はっ」

「ちょ、ちょっと! お父様は関係ない……」

「ヴェルヌス伯爵のお名前を出してる時点で、それはどうかと」


 慌てたリリス嬢に、ニッコリ笑みを返してあげると、途端に真っ青になる。あら、もしかして伯爵はご存じないのかしら? だったら、自業自得よね?


「わ、私、急用を思い出しましたわっ。イザーク様、ごきげんよう」


 ぴゅーん、という効果音でもついてそうなくらいのスピードで、屋敷を飛び出してったリリス嬢。


「……なかなか、傍迷惑な方でしたね」

「いやはや……助かったよ、ミーシャ」


 チュッと頭の天辺にキスを落とすイザーク兄様。さりげなくするあたり、慣れを感じるんですが。さすが、イケメンですね。

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