第165話

 初めての王都への自力での転移に、少しだけ緊張はしたけれど、飛んでみたらあっという間だった。本当に「あっ」だ。どうも距離も関係なさそう。何が駄目なのか、とことん調べてみたくなるね。

 イザーク兄様には連絡はしたものの、王都の屋敷のほうには、夕食前にヘリオルド兄様から執事のギルバートさんに連絡してもらっていた。なので、私が転移した先、王都に滞在している間に使っていた部屋で待っててくれるかなぁ? と思ってたんだけど……部屋の中、真っ暗。びっくりして、慌ててライトの魔法で、なんとか灯りをつけた。ぐるりと見渡して、ちゃんと部屋の中を確認。間違ったところに転移してなくて、ホッとする。


「うーん。ギルバートさん、もう一度再教育が必要?」


 ぽそりと呟きながら、私はドアを開けて廊下に出てみると、玄関ホールのある方がなんだか騒がしい。もしかして来客のタイミングだったのかしら、と、ギルバートさんに八つ当たりしたことを、ちょっと反省した。


「まぁっ! なぜ、ご一緒してはならないのです?」


 甲高い女性の声が聞こえてくる。言葉遣いと雰囲気から、もしかしてお相手は貴族の女性なのかしら? と思いながら、こっそりと上から覗いてみる。

 近衛騎士の格好のまま立っているイザーク兄様に、ピンクのドレスを着た金髪の女性が縋りついてる。


「ですから、今日はこの後、人と会う約束をしておりますと、何度も申してるではありませんか」

「イザーク様? 私よりも、そちらの方が大事とおっしゃるの?」


 あ、あちゃ~。もしかして、イザーク兄様のデートの邪魔をしてしまったのだろうか。うーん、このまま帰ると、それはそれで、後で兄様に叱られそうな。

 玄関ホールを見ていると、執事のギルバートさんとメイドさんたちも集まって、様子を窺っているようだ。ギルバートさん、こっちに気付いてくれないかな、と思ったけれど、兄様の方を気にしてて、こっちを見もしない。


「そうですね。第一、私は貴女様のお名前も存じ上げないのですが」

「ひ、ひどいっ! あの夜、一緒になってくださると仰ったじゃありませんかっ」

「ひどいと仰られても、そんなこと何時いつ……」


 兄様が困った顔をしている。豊満な胸を兄様の腕に摺りつけてる姿に、貴族っぽく見せてるけど、もしかして、娼婦的な人? と想像を逞しくしてしまう。見かけは貴族っぽくしてる相手でも、名前も知らない女性を屋敷の中に入れるなんて、女性に優しすぎじゃない? ハニートラップとか、大丈夫なのかしら。

 なんてことを考えながらジーッと観察してたら、バッチリ、兄様と目が合ってしまった。


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