第55話

 二回野営して、一回小さな町で泊って、ようやく街道の先に国境の砦が見えてきた。

 宿について言えば、この前みたいな豪勢な宿には泊らなかったのでホッとした。確かに、ああいう高級ホテルっぽいのも泊ってはみたいけれど、そう何度もはいいかなって思う。お金もかかるしね。


 タイミングよく、野営でも一緒になるような冒険者たちや隊商もなかったこともあり、リンドベル辺境伯家の話を色々聞かせてもらった。

 私の両親になるはずだったリンドベル辺境伯は長男だそうで、イザーク様はそのすぐ下の弟で、近衛騎士団で副団長をしてるそうだ。まだ二十四歳で副団長って、どんだけ強いのかしら、とか思ったけど、なかなか、その力量を発揮する機会はない。私がいる限り、弱い魔物はこないしね。

 そしてその下になんと双子の男女の兄弟がいて、二人ともが冒険者をやっているらしい。いや、弟の方はわかるよ? 男の子だし? 妹さん、所謂いわゆる伯爵令嬢だよね? それでいいの? と聞いたら、両親も冒険者をやってるんだって。なんか、息子にさっさと継がせて、夫婦水入らずで旅に出てるとか。ちょっと、羨ましすぎるんですけど。

 それでオズワルドさんは辺境伯と同い年で、カークさんはイザーク様と同い年で、それぞれが乳兄弟だとか。何がびっくりって、オズワルドさんがまだ二十八歳だったってことにびっくりだ。てっきり、三十……ゲフンゲフン……だと思ってたよ。

 そうそう、双子もご両親も冒険者やってるんだったら、彼らに頼めばよかったのに、と言ったら、イザーク様がちょうどシャトルワース王国にいたこともあって、頼まれたそうだ。そもそも、彼らが今どの辺にいるのか、イザーク様も把握していないらしい。かなり、自由なのね、と、笑ってしまった。


「ずいぶんと並んでるな」


 私たちは砦のある町に入るための列に並んで、すでに一時間近く経っている。


「どうしたんですかね?」


 私も背を伸ばして前の方を見るけれど、どうなってるのかなんてわからない。それぐらい並んでいるのだ。


「なんでも、門のところでのチェックが厳しくなって時間がかかってるらしいぞ」


 ちょうど前に並んでた冒険者っぽいおじさんが、振り向きながら答えてくれた。


「なんで、また。何か起きてるのか?」

「いやぁ、そこまではわからん。凶悪な犯罪者でも逃げてるのかね」


 凶悪な『聖女』が逃げてるかもしれませんけどね、とちょっとだけ思ったり。私はチラリと後ろにいるイザーク様を見上げる。ふむ。少し、不機嫌そう。そりゃね。さっさとこんな所、通り抜けたいと思うもの。


「王都絡みですかね」


 ポソッとイザーク様に言うと、渋い顔で「可能性はないとはいえない」とだけ答えると、少しだけ進んだ列に合わせて馬をゆっくりと進めた。

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