第365話
カークさんは、まだ屋敷の中を探っているイザーク兄様たちの元へ戻っていった。とりあえず、使用人たちの姿がないということは、しばらくは誰も来ないはず、と思っていたのだが。
少しすると、なんだか騒がしい声が聞こえてきた。騒々しいな、と思って、ドアの残骸の方へと目を向ける。
「まぁっ! お前は、誰だいっ! ロバート、ロバートはいないのっ!」
なんかケバイおばさんが、凄い顔して叫んでいる。
年のころは、四十代くらいか? 真っ赤な髪に肉感的な身体、濃い化粧で、迫力がある感じ。初めて見たわ、あんな真っ青なアイシャドウをびったりつけてる人。ああ舞台の化粧とか、あんな感じか。ドレスもなんだか年齢に合わない、ショッキングピンク? 趣味が悪い。
ロバートっていうのは、あの中年執事のことだろうか。だったら、どこぞに転がっているであろう彼が、来れるわけがない。
「なんなのっ、これは!」
結界をドカドカ叩いている。精霊王様でもなきゃ、破れないのに。
うん、淑女って感じではないな。
「……貴女こそ、誰?」
ドアのところまで近寄って、胡乱気に見上げながらそう聞くと、おばさんはギロリと睨んできた。おー、怖い。
「私は、テレーザ・ロンダリウス侯爵夫人よっ、さっさと、そこから出てきなさいっ!」
キャンキャンとうるさいなぁ、と思いながら、念のため簡単に鑑定。確かに、『テレーザ』という名前は合っているけど。
「ダウト」
「何ですって?」
「ふっ、嘘つき、ってこと。貴女、侯爵夫人じゃないわ」
鑑定で見ると、彼女の名前は『テレーザ・ボロドウ』となっている。勝手に侯爵邸に入り込んでるって、泥棒かい。名前まで似ている。
ドレス着た泥棒とか、逃げにくそうだけど。
「失礼なっ! 私は、れっきとした!」
「ミーシャ、大丈夫かっ!」
イザーク兄様たちが戻ってきたみたい。
「お、お前たちは、何者です……か……ま、まぁ……」
「……貴女様は?」
ケバイおばさんにも、丁寧に問いかけるイザーク兄様。かなり訝しそうではあるけど。
そのイザーク兄様の美貌に、頬を染めてるケバイおばさん……おいおい。
「わ、わたくしはテレーザ・ロンダリウス侯爵夫人。貴方方は何者です」
「それは失礼しました。私はリンドベル家の者です」
「……リンドベル?」
「ええ、あちらの部屋で、我が両親がお世話になっているようですが」
……おおお。イザーク兄様が悪い顔して嗤っている。
「え……ひぃっ!?」
さすがに彼の怒りが伝わったのか、もしくは、お父様たちの状況を知っていたのか、おばさんは腰を抜かしてしゃがみこんだ。
「夫人、なぜ、父が血まみれで倒れていたんですかね?」
「し、知らない、わ、私は知らないわっ!」
「ほぉ、では、ご主人ならご存知で?」
「!」
その言葉に、さっと顔色を悪くする。
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