第364話

 私は床に横たわるエドワルドお父様たちに、アイテムボックスから取り出した、手持ちの毛布をかける。ベッドやソファがあれば、そこに横たわらせてあげたかったが、この小さい部屋には、残念ながら見当たらない。


「ミーシャ、少し、屋敷の中を見てくる」

「うん」


 さすがに、こんなに騒いだのに誰も出てこないのは、怪しすぎるものね。

 イザーク兄様たちが屋敷の中を調べに部屋を出ると同時に、私はこの部屋全体に結界を張った。何せ、誰かさんのせいで、ドアが壊れてしまったからね。


 落ち着いて部屋の中を見渡す。

 この離れは、ベッドに横たわっている彼女のための部屋なのだろう。ピンクを基調とした可愛らしい部屋だった。しかし、少しばかり埃っぽい気がしたので、『クリーン』をかける。これで少しはマシになったか。


 床に寝ているエドワルドお父様たちの周りに、4個の石が落ちていた。たぶん、これが結界を張った結界石だろう。あのエドワルドお父様が血だらけになって、結界石頼みになるなんて、どんな相手だったのか。それにアリス母様だってそうだ。何が彼らに起きていたのか。


 そして、ベッドで寝ている少女。

 簡単に鑑定をしてみると、彼女の名前は『パトリシア・ロンダリウス』と出た。たぶん、侯爵の娘さんだろう。『ディスペル』が効いたことからも、彼女も、なんらかの呪いをかけられていた可能性がある。

 それで寝たきりみたいになったのかもしれないが、だからといって、こんな屋敷の端っこの離れに一人きりにしてるとは。世話をするメイドとかはいないのだろうか。

 彼女の扱いとともに、エドワルドお父様たちが なぜ、この部屋にいたのか、甚だ疑問ではある。これは彼らが目覚めたら聞けばいいだろうか。


 しばらくすると、カークさんだけが戻ってきた。あの中年執事を叩き起こして、情報を引き出したらしい。

 ……どうやって、とは聞かないことにする。


「そもそも、ここの執事の筆頭になる者が病で倒れたらしく、後を引き継いだのがあの男のようですよ」


 侯爵家なのに、あんなのしかいなかったのか、と思うと、少しばかり残念になる。


「侯爵が不在なのは本当のようです。三日前から登城していて戻ってきていないとか」

「……お城で何か起こっているのかしら」


 あの傘雲のことが頭をよぎるけれど、そこは私が心配することではない。

 奥様は近所の貴族の屋敷でのお茶会に行ってるらしく、こちらも不在。他の使用人たちは、ほとんど解雇や休みを取らされていて、屋敷にはいないらしい。


「まぁ、この国の内情については、我々がとやかく言うものではないですが……」

「お父様たちが巻き込まれていたら、話は別だよね」


 私たちは目を合わせると、互いにニヤリと悪い顔で笑った。


***


 今日からエピローグまで、一気に毎日更新します。

 残りわずかですが、最後までお付き合いいただけると、嬉しいです。^^


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