第23章 おばちゃん、ダンジョンに挑戦する

第264話

 南国の島。その言葉に間違いはなかった。確かに、青空も広がり、海も美しかった。浜辺だって、白い砂でまさに理想の姿。しかし、暑い。とにかく、暑い。

 自分たちの船室では空調ならぬ、水の精霊王様のおかげで、それほど暑くは感じなかったのに、翌日、ドアを開けた途端、ムワッとした空気に襲われて、南国というのを思い知らされる(タイミング悪すぎで、護衛担当が火の精霊王様に変わってるのも原因かもしれない)。


 そして……島の人々も暑苦しかった。

 冒険者ランクA級が二人も島に現れたのだ。それも、散々、苦しめられた海賊共を縛り上げた上にぞろぞろと引きつれて。事前に島側には連絡がいっていたのだろう。それはもうお祭り騒ぎになっていた。他にも小さな海賊みたいなのはいるはずなんだけれど、一番の大物が捕まったことが、よっぽど嬉しかったらしい。

 島の領主自ら出迎えられて、双子たちが連れて行かれるのを慌てて追いかけるはめになる。

 土地柄なのか、やたらと積極的な人が多いようで、双子の周りにはいつも以上に男女が群がってる。どんどんと追いやられて、それを遠目に見ている私。あんな集団の中に入りこむ気力はない。

 そんな私の肩には、火の精霊王様の玉が浮かんでる。


『美佐江、私がいるから大丈夫だ』

「まぁ、こうして埋没してるあたり、誰も気付いてないんじゃない」

『まったく、美佐江の可愛らしさに気付かない愚か者どもめ』

「あらやだ、ありがと」


 双子が領主に導かれたのは、馬車ならぬ牛車。まさか、こんなところで見るとは思わなかった。この暑さに、馬は厳しいんだろうか。


「ミーシャ!」

「ミーシャ、どこ!」


 牛車にびっくりして固まっている私に、双子たちの声が聞こえた。


「あ、はいっ、ここ、ここ!」


 手を上げて反応するけど、人の多さと私の背の低さで、双子には見えない模様。ジャンプしたところで、それすら見えないだろう。

 ああ、邪魔くさいな……と思っても、一般人に魔法をぶっ放す訳もなく。苛々しているところで、背後にいた知らないおじさんが、私の両脇に手を入れて、抱え上げてくれた。


「う、うわっ!? あ、す、すみませんっ」

「いいってことよ」


 にょきっと群衆の中から出てきた私に、双子の方も気付いたようで、慌ててやってくる。


「ミーシャ!」

「よかったわ! 貴方もありがとう」

「お、おう」


 パメラ姉様が私を受け取って抱きかかえる。いや、抱きかかえられるほど、小さくはないはずなんだけど。そして、おじさんの方は、美しいパメラ姉様が目の前にきて微笑んでるもんだから、真っ赤になって照れている。わかるよ。こんな美女に微笑まれればね。そうもなる。


「リンドベル殿!」


 領主の護衛らしき男が慌てて追いかけてきた。


「この子も一緒なの」

「え……」


 一瞬、なんで、こんなのが? みないな顔したな。双子もそれを見逃すはずもなく、サーッと空気が冷えていく。暑いはずなのに。


「あ、は、はいっ、わかりましたっ」


 護衛くん、相手見ような。

 それから私は、パメラ姉様に抱えられたまま、牛車のところまで行くことになる。ニコラス兄様、代わる気ないんだな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る